ちょっとしたこと

 ちょっとしたことを間違えると、大変なことになる場合がある。


 昨日、会社のトラックのオイル交換、オイルフィルター交換、燃料フィルター交換をした。


 要するにメンテナンスである。


 何においてもメンテナンス後は、チェックが必要である。基本に則って全作業終了後にチェックをした。


 すると、燃料フィルターという装置から、燃料の軽油が噴き出している。私は以前タンクローリーの仕事をしていたこともあって、このように燃料などの液体が漏れると、気が動転してしまう。軽油の液体は、たらたらでもなく、ピューピューでもなく、じゃんじゃんのレベルで吹き出し、作業場の一部が軽油で汚染されてしまった。


 バイト先の会社では、このメンテナンスは通常運転手がやりなさいとの決まりだが、これは緊急事態なので、工場専属のプロの整備士の方を呼んで対処してもらった。


 整備士の方はいろいろと質問をしてくる。


「ここのパッキンは、入れました?」

「んー 入れたよな、え、待てよ、残ってないもんな。入れたよ」

 物忘れが激しい昨今、パッキンを入れたかどうかなど、思い出すことができない。それよりも、軽油が噴き出してしまった事に動揺している。


「パッキンにグリスは塗りました?」

「グリスは塗ってないよ。軽油でぬるぬるしてたから、ちょっと伸ばして…」

「整備の基本で、パッキンを取り換える場合はグリスをけちらないでたっぷりと塗ってやった方がいいんですよ。なかなか馴染まない場合もあるんで、ラバーグリスを塗ってやると、あんばい良く馴染むんです」

「なるほど」

 わかっちゃいるけど、グリスは持っていないし、軽油でいいものだと思っていた。これもまた、私のミスのようだ。


「このネジ、結構キツく締めました?これ、鋳物なんで、あんまり強く締めなくてもいいんですよ」

「そうなんだ。あんまり力はいれてないと思うよ」

「これが中で割れちゃうと、大変なんです」

 そう言いながら、整備士の方はもう一度、私のインチキ整備箇所を分解し、原因究明の作業にかかってくれた。


「あった。これですね。これだと漏れちゃいますね。原因がわかってよかった」

 見ると、本体と蓋の接合部分にあるゴム製のパッキンが、ゆがんで、変な形になってはまっている。気を付けたつもりだったのだが、完全な私の手による整備不良だ。


「取り出した古いパッキンありますか?」

「たぶんあるよ。あったあった、これだ」

 私はゴミ置き場から、取り換えた後のパッキンを拾ってきて彼に渡した。彼は自分の整備棚からグリスを取り出し、パッキンにぬるぬると塗りたくって、再び取り付けてくれた。作業を目の前で見ていたが、やはりパッキンは少し大きめに出来ていて、なかなか指定の場所に入らない。グリスを塗ってやると、指定場所の大きさに馴染んで、すっぽりと収まったようだった。なるほど。


「今回は原因がわかってよかったですよ」

 彼は何度も原因のわからない箇所を修理させられているようで、今回のケースはよかったと言ってくれた。彼は私の整備不良を責めるでもなく、急がば回れなんですよ、と言いながら終始落ち着いて紳士的な態度で接してくれたので、私もパニックから脱することができ、気持ちが良かった。


 その後、再度エンジンをかけて点検したが、漏れはなかった。一安心である。


 今回は、こんな小さなゴムのパッキンを入れ損ねたのが原因だが、こんな小さなミスでも、大きなトラックは動かなくなってしまうばかりか、知らずに走り出してしまえば、道路に軽油をまき散らし環境汚染を惹起してしまう。トラックでもびっくりしてしまうレベルだが、例えば数日前にあったような、docomo回線のトラブルなど、ちょっとした事が原因で事故になり、大規模な災害レベルにまでになってしまう場合だってある。


 アメリカの大統領が持ち歩いている箱が誤作動してしまったなら、全世界で戦争が始まり、地球が滅亡してしまう。


 人間は完全ではないので、あらゆる場面でヒューマンエラーはつきものだけれど、できるだけ起こさないように、確認を徹底したり、体調管理に気を配ったり、職場や家庭での環境をできるだけ健全にするように心がけたり、できる限りのことをしたいものである。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る