家電(いえでん)
再び実家東京に住むオヤジから電話がかかってきた。
3Gから4Gに変えて何かあったのか、私の殆ど使っていない家の電話に、実家の家電から電話だ。
時節柄、年寄り二人で暮らしている実家からの電話はあまり良くない知らせではないだろうな、と、勘ぐってしまう。
電話口のオヤジは元気がない。
「困っちゃってさぁ」
「どうしたの?」
予想はあたってしまったのか。母の調子が悪いのか。不吉な予感である。
「携帯電話取り換えたろ。あれで訳わかんなくなっちゃってさ。もう解約しようかと思うんだけど、どうすりゃぁいいんだ?」
「そうなんだ。この前行ったお店に電話を持って行けば手続きできるよ。」
「そうだよな。金取られるかもしれねぇけど、仕方ねぇよなぁ。わからねぇんだもん」
身体の具合ではなく、どうやら新しい携帯電話に馴染めないらしく、解約はどうすればいいのか、この判断は正しいのか、という確認だった。
「これからは家電(いえでん)にするからよ。こっちな。こっちの方が使いやすいんだよ。母さんもな」
「わかったよ」
私が物心ついた頃には、既に家に電話はあった。小学生の頃、友人の田舎の岩手県に行ったら、その家に電話はなく、隣の商店の電話を借りて電話していた。
カミサンも、小さい頃は自宅に電話はなく、近所に借りに行ったという。
私も若い時には、自分の電話が欲しかった。真剣に自分の部屋に電話を引きたいと思っていたのだが、よく調べると電話を持つには加入権を買う必要があり、それが確か8万位して、これは払えないなと思ったのを覚えている。
その後も電話の権利費用がネックとなり、自分の電話を持つには至らなかった。
戦後の電電公社には金がなく、この権利金を元に電話回線を充実させていったという歴史がある。震災からの復興ではなく、戦争からの復興だ。
そんな思いが詰まった、自宅の固定電話、家電も、今となっては存在感が薄くなってしまった。電話は携帯電話に取って代わり、給料の半分以上もかかった権利費を払う必要もなく、自分の電話が持てる時代になった。
オヤジは携帯電話に翻弄された挙げ句、結局、元の電話に戻って行く。
こんな風に、いろいろな物が原点に回帰すればいいのにな、と、オヤジの電話を切った後に思った。特に最近の車や携帯電話に対して、私はいつもそんな風に思っている。
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