回転寿司
一年半ぶりに回転寿司に行った。
「アプリ取って、見てみたら三時半に予約取れたよ。お盆だから混んでるかもしれないけど、行ってみようね。じゃあ、仕事終わったら迎えに来るから、昼ご飯控えめで待ってて」
一年前の昨日、妻は大きな病院から退院した。物凄く暑い日だった。脳に血栓が詰まり、生死をさまよった後、何とか生活できるまでには回復していたが、後遺症で目に障害が残ってしまった。
真っ直ぐなものが真っ直ぐに見えず、ぎざぎざに見える、複視という症状。
医者からは次第に良くなると思うから、とだけ告げられ、彼女は滅入っていた。この先も治るのかわからない、仕事ができるのかもわからない、そんな不安を抱えた彼女は、退院後にうつ病を発症してしまった。
更に数ヶ月後には、子宮頸がんの手術も控えていた。
私は私なりに、家のことや義父の世話をし、何とか仕事も続けながら過ごしていたのだが、周囲の方達の噂になるほどまでに痩せ細ってしまった。
あの時、もう今までとは同じように過ごすことはできないんだ、と、覚悟した。
でも、時間は私達を見捨てていなかった。
メンタルクリニックの先生はとても面白くいい人で、私達の話をきちんと聞いてくれた。妻のうつ病は、それ程の服薬をせずとも徐々に回復していった。
複視でも何とか仕事に復帰できるよう、新しいメガネを作りに行った。そこの定員さんは飾らず素直ないい方で、私達の事を心から心配して下さり、丁寧に対応して下さった。よっぽど嬉しかったのだろう、妻はメガネを取りに行くとき、店員さんに何かをプレゼントしていた。
妻の職場の方々にも感謝せねばならない。上司や同僚の方々に特別なご配慮をいただき、職場を離れるというストレスを最低限に、治療に専念する事ができた。
あれから一年、ついに一緒に回転寿司を食べに行けるようになるまでに妻は回復した。当初心配していた複視は、ゆっくりと時間をかけて徐々に症状が良くなって行った。今は軽い睡眠薬と、血液をサラサラにする薬を服用しているものの、日常生活には支障がない程までに回復してくれた。
病気になってしまった原因は太りすぎだという観点から、普段は食べるものに非常に気を遣っている。以前は大好きだった、カップラーメンや唐揚げ、塩気の多い食べ物などは食べないように二人で気を付けている。
お盆期間中だったが、天気が悪かったせいなのか、それとも時間的によかったのか、待つことなく、店に入ることができた。テーブルへの案内も、会計も、スマホでできるようになっていて、スマホ音痴になりかけている私にとっては、隔世の感があった。
快気祝いには遅かったが、何の制限もなく食べてしまったところ、夫婦二人で35品、六千円弱の会計だった。一年前には、まさかこのように元の生活が送れるとは思っていなかったので、ほんとうによかった。
「このシステムいいね。食べ過ぎちゃったけど美味しかったね。また行こうね」
そう言う妻の顔を見ると、本当に回復してくれてありがとう、と、心からの感謝の言葉を述べずにはいられない。本人にはもちろんだが、いろいろと良くして下さった、周囲の方達にもこの場を借りて感謝を申し上げたい。
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