1000円
「今日はお休みですか?」
久しぶりに声をかけられた。
昨日はコロナの影響でバイトが休みになってしまったので、床屋に行った。
屋久島にいた頃はお金がなかったし、それ程気にもならなかったので、床屋には行かずに自分でカットしていた。かなりめちゃくちゃになっていたようだが、自分では見えないのでいいかなと思い、自分カットを貫いていた。
島を離れると決めた後、最後にどこかの床屋に入ってみようと、宮之浦の床屋に行ってみた。高い床屋はやはり気持ちのいいもので、こんな気持ちのいいものは、やはり私の生活水準には合っていないな、などと思ったものである。
こちらに来てしばらくは、近所にある3千5百円の床屋に通っていた。何度か通ううちに、そこが「カットだけ2千円です」というものをはじめたので、すかさずこれをオーダーしたところ、店員が気まずそうな顔になり、全く喋らなくなったので、それならこんな商品作らない方がいいですよ、と言いたかったが、気が小さいのでそれも叶わなかった。
やがて県道を越えた所に待望の1000円カットが出来て、しばらくはそこに通っていた。しかしここのオーナーは人柄はいいものの、技術にこだわるあまり、カット中の私の頭の動きがかなり気になるようで、多いときには十回以上頭の位置をなおされ、あまりいい気持ちにはなれず、最後にはストレスから行くのが面倒くさくなってしまった。
私の気持ちを察したのか、数年して、その床屋の隣のブロックに小規模ショッピングモールが完成し、その中に1000円でカットしてくれるお店が開店した。こちらは会社組織で運営されているので、カットしてくれる従業員もそれなりの感じで、私のニーズにちょうど合っている。
今回声をかけてくれたのは、ここの方だった。
「コロナで今日は休みになっちゃって。いつもは週末に来るんですけどね」
「影響のない人はいませんからね」
そんな会話だったが、ここでは滅多に話しかけられないし、話しかけもしないので、何だか新鮮だった。
その方は髪の毛を吸い取るのが少しだけ乱暴だったが、技術は確かで、帰ってカミサンにカット後の頭を見せると、「今日の人は上手だね」と、褒めてくれた。
カミサンは毛染めを買ったり、それなりに価格がするパーマやカットに行ったりと、なかなか髪の毛の手入れが大変そうである。
私は同級生の中では白髪も殆どないし、そんなに剥げてもいないので、お金もかからないで簡単でいいね、と、カミサンによく言われる。
安いのは嬉しいのだが、安ければ安いで、今度は行くのが面倒くさかったりする。私はどこまでも愚かな人間なのである。
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