現地調査ミス

 50年以上前、東京の世田ヶ谷に住んでいた頃は借家で、エアコンなどあるはずもなく、夏の暑さは扇風機で凌いでいた。


 扇風機の本体から、風量調節とタイマー操作をする操作部が取り外し可能で、取り外した操作部と本体がコードで繋がり、遠隔操作が可能なタイプだった。結構がっちりとした造りで、子供ながらにこのリモコンで遊んでいたのを覚えている。


 昭和49年、多摩ニュータウンに引っ越しても、夏の暑さは扇風機で凌いでいた。両親が必死の思いで買った公団住宅は多摩丘陵の丘の上にあり、窓を開けていると心地よい風が部屋に入ってきた。世田ヶ谷とは違い緑が多く、窓からは百草園と、新宿のビル街が見えるという、今から考えれば何とも贅沢な眺めを楽しむことができた。


 20年後、屋久島に行ったら、とても暑かった。湿度も物凄い。家の代わりにと引っ張って行ったキャンピングトレーラーにはエアコンが付いており、夏はこれを作動させて過ごした。途中で猫を飼うことになったが、昼間はこの猫の為にエアコンをつけっぱなしにして、漁の仕事に出かけた。アメリカ製のエアコンはそれなりに冷えたが、音がうるさく、電気代も結構かかった。いつ故障するか、故障したらどうすればいいのかの不安もあった。


 結婚してカミサンの実家に入り、とりあえず経験がなくても仕事をさせてくれる所ということで、運送会社に就職した。そこは佐川急便の下請けの路線便を運行している会社で、昼と夜が逆転する生活となった。


 義父が申し訳ないと思ってくれたのか、寝室にエアコンを設置してくれたのだが、ここは数ヶ月で辞めてしまった。危険物の資格を取り、次のタンクローリーの仕事が見つかったので、積み卸しが楽だと思われた仕事に転職したのだった。


 ということで、寝室にはエアコンがあったが、普段テレビを見たり食事をしたりする寝室にはエアコンがなかった。昨年カミサンが大きな病気を立て続けに2つほどして、退院して来たその日は気温が35度位で、退院して弱っているカミサンは、「今だから言うけど死にそうだった」という状況だった。


 このような理由から、私の実家の親からの支援などもあり、この度私達のリビングルームにもエアコンが取り付けられることになった。


 先だっての日曜日に作業は無事に終了し、お願いした地元のホームセンターに支払いを済ませてきた。家が古いので造りが特殊で、配管を外に出す段取りがかなり難しかったらしく、現地調査にやって来てくれたホームセンターの係の人と、取り付け担当の職人さんとで「こりゃ、現地調査ミスだな」などと冗談混じりに話していた。


 私は当初、庭の手入れなどをしながら作業を待っていようかと思っていたが、作業を見ているのがついつい面白くて、はじめから終わりまで、作業に見入ってしまった。特に真空引きに興味があり、何となくわかったような気がした。カミサンにこの事を話したら「邪魔だったんじゃないの?」と窘められ、今更ながらに申し訳なく思った。


 しかし綺麗に付くものである。担当の職人さんは電気工事の職人さんだったが、繁忙期の休みの日には、ホームセンターからエアコン取り付けの仕事も請け負っているような感じだった。こちらにしては湿度が高く、汗をふきふき頑張ってくれたので、位置決め、穴開け、本体取り付け、配管取り回し、室外機設置、ブレーカーからコンセントを取る電気工事一式、全ては2時間半程度で終了した。もちろん仕事はプロで、養生もきちんとしてくれ、二人で来てくれたので段取りも良く、とてもスムーズに進んだ。


 工事費用が少し高いかなとは思ったが、概ね満足している。


 この夏は電力の逼迫が心配だけど、とりあえずは大丈夫だ。


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