大豆田とわ子

 昨日日曜日の昼、そろそろ昼ご飯にしましょうと、カミサンが私に声をかけた。


 天気が良かったので、私はとあるムード歌謡の歌詞の如く、庭の手入れをしていた。奥に子供はいない。メダカとゴキブリなら子供がいると思う。


 私達がサンルームと呼んでいる部屋の網戸をカミサンが開けたところ、上手く開かない。昭和53年に建築された我が家は、東日本大震災で半壊判定を受けるも何とか頑張ってくれているが、新築の家に比べれば不具合箇所がいろいろとある。


 ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の中で、松たか子が演ずる大豆田とわ子は、網戸の動きが悪く外れるのが大嫌いだという。

 

 カミサンも同じで、このように網戸が開かないと瞬間的にカッとなり、変な声を出しながら余計に力を入れて、何とかその場を凌ごうとする。


 いつもと違う力を、いつもと違う方向に入れるので、かなりの確率で網戸は外れて、更に怒りが増すという無限のループに陥る。


「こういうときは、ま、無理かもしれないけど、カッとしないでさ、こうやればいいんだよ」


 いつか教えて上げたので、かなり良くはなったものの、完全ではない。彼女は血圧を下げる薬を飲んでいるが、身体にもよくない。


「かしてみ。油差せば大丈夫かなぁ」

 

 私はレールを外れかけている網戸をカミサンからもらい、取り外してひっくり返し、取り付けられているプラスチックのタイヤを点検した。


「タイヤじゃねーな、このレールだな、掃除しよう」

「いいよいいよ、閉まればいいよ、ご飯にしようよ」


 この程度の埃ならホースを引っ張ってきて流すだけで完了するし、その時間はものの数分だと思うし、一度掃除すればしばらくは大丈夫だとは思うのだけど、カミサンの頭の中は昼ご飯、ランチになっているようで、彼女の意見を尊重することにした。


 段取りが狂うのを嫌う彼女の段取りを乱してしまうと彼女にとってストレスとなり、病気が悪化してしまうといけないので、ここは素直に従い、作業中止でランチにすることにした。


 網戸の網も、何だか破けて調子悪くなっていたな。これもそろそろやらなければである。こちらへ来て、最初の一度だけ、ホームセンターにお願いしたけれど、その後は自分でやるようにしている。網戸は家じゅういっぱいあるから、とりあえずここだけやろう。


 来週、私達の部屋には待望のエアコンが取り付けられる予定である。網戸の出番も減るのだろうか。


 カミサン待望のランチはもちろん美味しかったが、私はしばらくの間、網戸の事が気になって仕方がなかった。



 

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