悪いのは貴方。

 義父に呼ばれた。


 嫌な予感がした。


 あまりいい用事ではない事はわかっていた。



 高血圧、糖尿病、腎臓病、ペースメーカー装着。病気のデパートと言われているのに施設には入らず、頑なに自宅で治療、療養中の義父。先日の定期検診で人工透析の見極めの入院をするので、今度の木曜日に悪いけれど会社を休んで付き添ってくれないかとのことだった。


 その言い方は要点をぼかして回りくどく、ハッキリしないその態度に、まず私は憤った。


 「今日は奮発しちゃった、とんかつだよ」


 そう言って嬉しそうに、スーパーの総菜のとんかつを盛り付けてくれた妻は、夫婦水入らず、楽しい夕食の時間を邪魔されて爆発寸前。脳梗塞と子宮頸がんを同時に煩ったものの、奇跡的に復活できた妻。現在の彼女にストレスは大敵だ。経過は良好と言われているが、転移のリスクは一生付きまとう。


 義父は自分勝手だ。病気を治そうという努力を全くしていない。ケアマネージャーがセットしてくれた、カロリーが計算された配達される弁当を、勝手に数ヶ月で辞めてしまった。こんな病気なのに、朝は食パン二枚にジャムをべったりと塗って食べる。昨日夜はスーパーで買ってきたパック入りの1200円のステーキを焼いて食べていた。代引きで穴子、牛丼、豚丼などの、高額で味の濃い、病気の身体には良くない食べ物を頼み、これらが冷凍庫の積載を食い、妻は見る度にストレスを感じている。食い物は自分で代引きでちゃっかりオーダーするのに、夜間に口に装着する装置に使う精製水は頼めないとかで、妻に依頼する。都合の悪いことは顔を見るのが嫌なのか対面では喋らず、紙に書いて机に置いてあるという体たらく。そのくせ、毛虫が嫌いで、庭にアメリカシロヒトリが出た時には一人で大騒ぎ。歯医者が怖くて、歯医者に行くことができず、歯が殆どない。


 家族にどれだけの迷惑をかけているのかも顧みず、自らの食欲を満たすためだけに生きている義父。最高峰の退職金をもらい、今ももちろん私の給料以上の年金をもらっているが、全て使ってしまい、貯蓄などない。まさか、訪問看護のナースに貢いでいるんじゃないだろうなと勘ぐってしまうほどだ。


 私は一人間として、この一軒家に住まわしてもらっていることに感謝している。でも、それとこれとは別問題。


 妻は一つ間違えれば死んでしまう。


 難しい問題だが、義父は長い間家族を顧みず、自分の兄妹関係の親戚にばかりいい顔をしてきた。若くして亡くなった妻の母、彼の妻がその犠牲になり、カミサンも長い間犠牲になり、今まさにとどめを刺されかけている。


 私は病院への付き添いを断った。

 妻も断った。


 何故透析しなければならない身体になってしまったのかを彼は考えていないし、もちろん反省なんかしちゃいない。

 透析には病院の売上額として、年間500万円かかることを、彼は知らない。

 国民一人当たり、およそ1000万円の借金をして、その費用を捻出している事実を、彼は知らない。

 透析しなくてもいいという選択肢があることを、彼は知らない。


 日本の手厚い医療はありがたいのかもしれないが、この人に対するものではない。



 彼が入院し、彼が家からいなくなる日を、私と妻は今から楽しみにしている。


 

 これでいいのだ。


  

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