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草刈り機

　東京に住んでいると、庭付きの一戸建て住宅を手に入れる事はなかなか難しい。

　かく言う私もかつて、実家の公団住宅を出て、一戸建てが何とか手に入らないものかと高尾あたりの物件を物色していた時期があったが、一応の二部上場、30代の中堅サラリーマンが頑張って働いたところで、東京と名の付く土地で一戸建てを手に入れるのはなかなか難しいものがあった。

　しかし、屋久島に行ったときに知り合ったカミサンの実家にマスオ化させてもらうということになったことで体制は逆転し、もう20年以上、庭付きの一戸建てに住むことができている。人生はどう転ぶかなんて、誰にもわからないものだ。

　庭付きの一戸建てなので、当然庭がある。この庭の手入れがなかなか大変だ。

　私が来た当初は、義理の父が毎年庭師を頼んでおり、夏場に伸びきった草も、秋口には綺麗になっていた。しかし、その価格を聞いてびっくりし、お義父さん、それは大変でしょう、これからは私がやりましょう、ということで、私が請け負うことにした。

　大小の園芸用脚立をホームセンターで買い、園芸プロ用のハサミを旅行のついでに寄った新潟で買い、あれやこれやの道具を揃え、毎年格闘してきた甲斐もあって、最近では松の剪定も何のその、プロには到底及ばないものの、シルバー人材センターさん位にはできるようになった。

　庭木は何とかなるのだが、毎年の悩みの種は雑草だ。雑草魂などという言葉があるように、雑草は力強い。どこにでも生えてきて、たちまち庭の景観を損ねる状況になってしまう。

　除草剤を検討した時期もあったが、あれは海外では使えないものを日本が許可しているのだよ云々、というような記事を読み、これはやはり辞めようと言うことで、除草はハンドピックしましょう、という決まりにした。

　鎌を片手に除草をするのだが、これが結構大変だ。

　大事な時間もかなり費やさねばならない。

　しかし、エンジン式の草刈り機を導入するほどでもないよな、という葛藤が続いていた。

　こんな状況を打破するべく、去年の春に中国通販で電気式の草刈り機を購入した。しかし、リチウムイオン電池が日本送付にひっかかるのか、発送されるも返送されてきたとかで、先方よりキャンセル依頼があり、なくなく諦めたという事があった。

　今年も春がやってきて、暖かくなってきて、茶色だった庭がたちまち緑になり、黄色い小さなかわいい花が咲きほこっている。

　今年も始まったな、と思った矢先、カミサンが何を思ったかこんな事を言った。

「Amazonでタイムセールやってるよ。アイリスの草刈り機、あるんじゃない？んー、あるある、3千円位安いよ。買っちゃえば？」

　今年もハンドピックで頑張りましょう、と思っていた矢先だった。我らが宮城県の大企業アイリスオーヤマの草刈り機は確かにいいのだけれど、歯がプラスチックで欠けるとかの口コミを読んで躊躇していた。でも、私の庭の大きさと電気草刈り機の相性がいいだろうことは想像が付いていた。

　ということで、ポチッとしたらば、何と翌日に自宅に配達された。仕事から帰ると、二階へ上がる階段の所へ立てかけてあった。私がホームセンターで買って車に積んで持って帰ってくるよりも綺麗な状態で自宅まで届いた。恐ろしい世の中になったものだ。

　わかっちゃいるけれど、あまりにも突然に自宅まで草刈り機が届いたので、その日の夜に倉庫に放り込んだまま、手を付けられず、そのままになっている。

　庭の雑草には今、綺麗で小さな黄色い花が咲いている。刈っちゃぁ可愛そうな気もする。そういえば家の車の駐車場の後ろの辺りも草が生えてきたとカミサンが言っていたので見に行くと、ここも紫の小さな花が咲いている。

　長い冬を越して、春になって、すぐに刈り取られてしまったのでは可愛そうだ。

　もうちょっと待ってから、庭のメインのステージに生えてきたスギナを刈ってみようかなと思ったら、何とこのスギナがメルカリで販売されている。当然我が家のスギナだって無農薬だし、一瞬売ってみようかとも思ったが、匿名配送が気に入らない国内販売はもうやる気が起こらず、おかしな金儲けは辞めることにした。

　せっかく刈った草刈り機、デビューはもうちょと先になりそうだ。