隠れた犯罪者

「不毛な時間でした」


 昼休み、私からのLINEの問いかけに、カミサンはこんな返事をよこした。


 カミサンは同居する実の父と一緒に病院に行っていた。


 義父は腎臓の数値が悪かったのだが、ついに人工透析をしなければならないレベルまでになり、その説明ということで家族が呼ばれた。


 カミサンは私に多くを語らなかったが、行くだけでいろいろなことを考えてしまい、大きなストレスを抱えているようだった。


「塩分に気を付けて食事をしています」

 

 義父は担当の看護師さんにこんな事を言ったらしい。嘘八百もいいところだ。嘘つきは泥棒のはじまりだ。


 とにかく、カミサンは夏に大病をし、現在自分の体調もあまり良くはない事から、この人のためだからと言われても出来ないことが沢山あること、旦那である私も拘束時間の長い仕事で、日曜日しか休みがなく、平日に時間を取る事はできないこと、透析の送迎などはできないこと、などをハッキリと伝えた。


 カミサンは病気をしてから、睡眠薬を飲んで何とか寝ているような状況だ。今まで精神状態が安定していた時には、これでよく寝ることができていた。


「12時まで寝られなかったよ」


 今朝5時頃、私が出勤の準備をしていると、トイレに起きてきたカミサンはこう言った。また、昨日は、「ここ数日、頭や手の先が少し痺れていて気になるので、病院に電話をして診察してもらおうかと思っている」とも明かしてくれた。


 80過ぎのこの先何もない老人に月額50万円もの大金をかけて延命の治療をする価値などあるのだろうか。それに振り回されてしまう身内が病気になってしまうなら、その治療は治療ではなく犯罪だ。


 無駄な所に使われている多額の税金。医療法人と薬屋は売上げが上がるからいいのだろうが、こんな仕組みを私は許せない。私ならこんなものせずに、断る。そんなにまでして生きている価値はない。


 今の世の中、歪んでいる。


 自然の摂理に抗うことなく行けばいい。

 ダメならそれでいい。



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