透析

「ちょっといいですか?部屋に来て下さい」


 妻が義父に呼ばれた。

 いい事なんかであるはずがない。


 妻は私の腕を掴み、同行を促す。私はついて行く。


 義父は今日、病院で定期の検査をしたところ、腎臓の数値が悪く、人工透析をする事になったらしい。その説明があるので、来週の火曜日、病院に同行して下さい、との依頼だった。


 一生懸命病気と闘っている親なら、同僚に頭を下げ、シフトを調整して仕事を休み、がんばって行ってあげようという気にもなる。


 しかしこの親は、実の一人娘が今まさに死んでしまうかもしれないという状態になった時にでも、何の援助もなかった人だ。


 自由奔放はいいけれど、あるお金は全て使い、好きな物を食べ、国が「あなたのために用意していますよ」という弁当を食べず、自分の事ばかり考えているくせに、いざとなったら頭を下げれば何とかなると思っているその姿勢が許せない。


 妻はあらかじめ決まっている事柄をねじ曲げられるのが大嫌いだ。


 仕方なく承諾したが、「私も病気をしていて、全てをやることはできないから」と、断りを入れていた。


 この人の場合だが、結局は自分が悪いのだ。


 身体にいいものを食べようなどとは微塵も思わずに、この年まで好きな物を食べ続けていたからの結果だ。医者に頼り、薬に頼り、自分で何とかしようなどとは思っていない。その医者や薬に、私達が毎月納めている貴重な税金が使われている事など、わかっちゃいない。


 妻も私も、今朝起きたら寝不足だった。


 簡単に言ってくれるが、同居する者にとって、どれだけストレスになるのか、よく考えて欲しい。


 人工透析となれば、今後、介護施設に入ることも簡単ではなくなるし、費用もかさむだろう。


 今からいろいろと考えてしまうと、こちらが病気になってしまう。


 せっかく妻は自分の病気が快方に向かっていたというのに。



 勘弁して下さい。


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