文芸社からのオファーは
ポストを見ると、A4の封筒に入ったDMがある。
私宛だ。何だろう?ダイレクト出版かな?いや、もう縁を切ったはずだけどな、と思いながらよく見てみると、文芸社からだった。
私はかつてインターネットで日記を書いており、それを何とか本にしたいという強い思いがあった。インターネット黎明期、できる限りの情報を収集し、オファーもしてみたが、出版は叶わなかった。
どうしてもその夢を捨てきれず、結果として、私は文芸社の広告に引っかかった。
今の軽自動車が一台買えるくらいのお金を出して、本を出した。
私の本は約束通り一定期間書店には並んだものの、時間をかけて現実が厳しいことを思い知らされた。
手に入れることができたものは、想像したものではなく、一応の出版の実績と、借金だけだった。
今回のDMは、「あなたのアイディア、文章を本にしませんか?一名だけ無料で出版します。文章がなくてもアイディアだけでも応募できます。」との内容だった。
私の心はもちろん動かない。
数年前、編集部に、屋久島も田舎暮らしも盛り上がっているし、この内容には隠れた強いニーズがあるから、重版してちょうだいな
、と依頼をしたが、返事は携帯に着信があったきりで、取り合ってもらうことができなかった。
今回のこの企画は、潜在的に出版したいという思いを持っている人たちを、無料で出版という言葉で再び呼び寄せ、悪い言葉で言うなら釣り上げて、応募してきた人たちに、「編集部がサポートしますから出版しませんか。無料枠ではありませんが、今ならこれこれの大特価でさせていただきますがいかがですか?」 というオファーをなげかけるものだろう。
一名だけ無料で本を出しましょう、という目的なのに、何でアイディアだけで応募ができるのかが摩訶不思議だ。企画の裏の企みが見え透いており、一応世話になった身ではあるが、腹立たしくなってしまった。
封筒の中の用紙は捨てられないように、そこそこ丈夫なクリアケースに入っていた。その甲斐あってか、一晩私の側にいることができたが、今日家に帰ったら、廃棄することとしよう。
もう、借金はこりごりだ。
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