オグリキャップとスパイクタイヤ

 二十歳くらいの時、三菱のデリカスターワゴンという車に乗っていた事がある。


 トヨタに勤めていたが、時はバブル、ユーミン全盛時代で、誰もがこぞってスキーに行く時代だった。もう一台、トヨタ車を持っていたので、職場の上司にも暗黙の了解ということになっていた。


 このデリカは4WDで、沢山の人を乗せることができる。当然、同級生や地元の友人などと一緒に、あっちこっちにスキーに行ったり、再ブレイクのヒロシじゃないけれど、富士山の近くによく行き、ソロキャンプなどを楽しんでいた。


 冬になると屋根にスキーキャリアを設置し、足元はなんと、スパイクタイヤを履いていた。東京である。一年に一回、雪が降るか降らないかだし、路面もそんなには凍結しないしなのだけど、とにかく、雪に強い車にしたいというエゴがあった。


 スパイクタイヤは高かった。でも、どうしても欲しかった。


 潜在意識の中にあったようで、当時、何もわからなかった競馬をやってみようと、突然思い立った。上司が競馬好きで、いつもサンスポを読んでいたので、その影響があった。


「これは固いぞ。絶対に近い」


 上司が興奮していた。何だかとても強い馬が二頭いるようで、これとこれを買えばかなりの確率でなんちゃら、だけど、やっぱり穴狙いでなんちゃら、とかべらべら言うので、その週末、地元の京王線に乗って、いつも通勤で通る東府中で乗り換えて、東京競馬場へ、生まれて初めて一人で馬券を買いに行った。


 忘れもしない、オグリキャップとタマモクロスという馬だった。これの枠連に4万円ほど突っ込んだら、上手いこと当たって、当時欲しかったスパイクタイヤが買える位の金額になった。


 スパイクタイヤである。タイヤにピンが打ってあるのだ。走ると、メリメリマリマリと、アスファルトを削る凄い音がする。路面の塗装も、この車が走ったら剥げてしまいそうだった。当時は若かったので、面白がって、粋がって、根城とする東京都多摩地区をメリメリと走り回っていた。


 東京では自家用車に冬タイヤを履く習慣はない。ちょっとおかしな、私みたいな奴が、「私ゃスキーしますよ、雪の降る所によく行きまーす」とばかりに粋がって履いている位だった。


 でも、今住んでいる宮城県では、冬タイヤを履かねばならない。雪はそれほど降らないが、朝晩は凍結するからだ。


 私が東京でスパイクタイヤを履いていた頃、宮城県ではスパイクタイヤが路面を削り、粉塵が舞い上がり、大気を汚染する被害に悩まされていた。スパイクタイヤは氷や雪の上では効果的だが、アスファルト路面の上で使う物ではないという流れになり、突然、製造が中止され、販売も中止になり、スタッドレスに移行することになった。


 これは、かなり唐突な、突然の出来事だったらしく、こちら東北では「スタッドレスで大丈夫なのか?」「峠道はどうするんだ?」などなど、多くの人が戸惑ったと聞く。しかし、その後は除雪の体制が整ったり、凍結防止剤の散布が行われるようになったり、更にはスタッドレスタイヤ自体の進化もあって、何とかなっている。


 同じ事が今、東京で起こっている。2030年までに、ガソリン車をやめなさい、との指示が出た。今はコロナでそれ程響かないのかもしれないが、これはとんでもない変革だ。軽自動車はどうなるのか?2030年、ガソリン車がオークションで高くなるんじゃないか?バッテリーはどうするんだ?電動バイクって大丈夫なのか?等々、いろいろある。


 石原慎太郎様のプレゼンにより、古いディーゼル車が都市部を追い出された時も同じだった。


 時代の流れで仕方ないとはいえ、今回の「やつ」は、とんでもない事になるだろう。


 この先、いろいろなことが変わってくるし、変えなければいけないのはわかっている。スタッドレスへの変更や、ディーゼル車の禁止の時と同じく、変わるときには大きなストレスを感じることになるだろう。


 難しい時代だけど、このストレスは将来のためなのだと前向きに捉え、楽しいことを考えながら、悲しむことなく、前向きに生きていこう。


 

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