リクシアナ

 昨日はカミサンの子宮頸がんの手術の説明ということで、休みを取り、病院に行ってきた。


 カミサンには一人だけとても仲の良い友人がいて、この友人が付き添ってくれると言ってくれていたのだけれど、説明は原則的に家族でお願いしたい、ということで、何とか会社と現場に無理を言って、平日に休みをもらった。


 昼から、心電図、レントゲン、採尿、採血、血圧などの検査をし、午後3時30分から、ドクターによる説明ということだったが、検査が思った以上に早く終わったので、一度病院を出て、ファミリーレストランへ平日限定のランチを食べに行った。


 ファミレスはそれなりに繁盛していて、従業員もギリギリで回しているので、とても忙しそう。呼び鈴を押してもすぐにオーダーを取りに来なかったので、カミサンは一度押しているのに、もう一度、呼び鈴を押した。そんなに急がなくたって、一度押していれば順番で来るのに、と思っていたが、カミサンはせっかちだ。今は病気で弱っているから大丈夫だけど、こんな事がきっかけで、言い合いや喧嘩になったりする。


 パスタのランチを食べ、病院に戻り、ドクターからの説明を受けた。


 カミサンは脳の血栓症を患ったので、リクシアナという、血液をさらさらにする薬を飲んでいる。やはり、これを飲んでいると医師側でも慎重になるらしく、麻酔は婦人科の執刀医ではなく麻酔科で行うということで、麻酔科外来という所にも行った。


 ここは、かつてカミサンが脳の血栓症で運ばれた集中治療室と同じ階の並びにあり、私は荷物を持ってきたり、説明を聞きに来たりで、何度か訪れていた。外来のそれとは違い、無機質に横長椅子が並んでいる。


 入院していた本人は、もちろんそれを知る由もなく、看板を見ると、


「ここがICUの入り口なんだ。迷惑かけたわね」

 と、申し訳なさそうに言った。


 手術は麻酔をして、患部を電気のメスで円錐状に切り取るというもの、との説明だった。可能性は少ないにせよ、今知らせてある状況よりも、悪くなっている可能性もあること、出血が止まらずに、輸血などをする可能性もあること、麻酔でアレルギー反応が出てしまうことがあること、などの説明を受けた。


 婦人科のドクターはとても若く、わかりやすく、丁寧に説明をしてくれた。

 麻酔科のドクターは男性で、とても物腰の低い方だった。


 ここは国立病院で、急患をヘリコプターで運び入れたりする機能もあるので、万が一の事が起きても安心できる。


 ただ、手術時には家族が立ち会う必要があり、これがとても困った。今日休んでしまったし、来月の手術の日には、休めないこともないけれど、周囲に迷惑をかけたくない、日給なので収入が減ってしまう、仕事を他の人に取られてしまう可能性がでる、などの理由から、できれば休みたくなかった。


 私が盲腸の手術をした40年くらい前は、親が麻酔をするときに手を握っていてくれたり、記憶が曖昧だが、おそらく手術時も傍に親がいたような気もするし、術後も話をする事ができたりしたが、今はコロナの影響で、こんな事はできないばかりか、当日は本人に会うこともできず、術後に顔を見ることさえもできない。


 万が一の際の連絡、承諾であれば、電話で済むであろうと考えてしまったことも、理由の一つだった。


 家に帰り、申し訳ないけれど、これからの生活もあるので、今回の状況ではそう簡単に仕事は休めないと伝えると、カミサンは承諾してくれた。


 代わりに友人に頼むから、と言ったが、私としてはとても心苦しかった。


 今朝連絡が来て、友人が付き添いを快諾してくれたとのこと。ありがたいことだ。連絡先を聞いていたので、私からもお礼を言った。



 生身の人間にメスを入れるのだから、いくら医療技術が進歩しているとはいえ、万が一の事態が発生してしまうリスクはゼロでない。何とか無事に終わり、予定通り、三日の入院で家に帰ってきてほしいと願うばかりである。



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