カンパニュラのせい
~ 十月四日(金) 鹿驚 ~
カンパニュラの花言葉 親交
昨日、おじいちゃんと歩きながら借りていることを思い出した。
俺の図鑑を捜し歩く忘れんぼさんは
軽い色に染めたゆるふわロング髪をつむじの辺りにお団子にして。
そこにわんさかとカンパニュラを活けているのですが。
その中に、本物のベルも混ぜて挿しているせいで。
動くたびに。
カランコロンとやかましいのです。
「……ロッカーにも無かったの」
「勘弁してください。明後日、必要なのですから」
やれやれ。
どうやらこいつ。
どこにしまったか思い出せないようで。
昨日は部屋を。
そして今日は、教室内を散々ひっくり返しているのです。
「文句ばっかり言って。道久君も真面目に探すの」
「怒る気も湧かずに、そうしたいのが山々という自分に驚愕なのですが。でもどこを探したものか見当もつかないのです」
「むう。それならひょっとして……」
そして穂咲は。
いつぞやの虫眼鏡を取り出すと。
迷探偵の、当てにならない推理を元に。
神尾さんを指差します。
「犯人は、いいんちょなの!」
「あはは……。今日は、何の遊び?」
真面目に三時間目の予習をしていた神尾さん。
この失礼な扱いを許してくれるのですが。
「人を指差すのも疑うのも失礼です!」
久しぶりに。
穂咲にチョップです。
『からんころん』
「……ちょっとそれ。外しときなさい」
「確かに、今日のはちょっとどうかと思うの」
わんさか生やしたカンパニュラとベル。
まとめて花瓶へ移す穂咲に。
ああそう言えばと。
神尾さんが声をかけます。
「この間はありがとうね、お花の図鑑。参考になった」
「……どういたしましてなの」
「適当に相槌うちなさんな! また貸ししてたの、忘れてたのですよね!」
「正解なの。すっかりさっぱり覚えてないの」
ああもう!
また貸し、ダメ絶対!
「すいません神尾さん。あれ、明後日必要なのです。返していただけませんか?」
「え? 返したよ? おすすめのCDと一緒に」
「は?」
「そうだ。あのCD、週末に来る従妹に貸してあげる約束してたんだ。帰りに寄るから、返してもらえるかな?」
笑顔でお願いする神尾さんから。
目を逸らす穂咲なのですが。
……まさか君。
「ダブル遭難!?」
「ま、待つの。今、検索中なの……」
「早くなさい! 図鑑はともかく、CDを先に!」
「えっと……、たしか、こころちゃん?」
慌てる俺を押し退けて。
穂咲は新谷さんの元へ、とてとて走ると。
「ねえ、こころちゃん。あたし、CD貸してたっけ?」
「うん、借りた! あれ良かった~!」
「あたしの方が良かった~なの」
危ない危ない。
俺も良かった~ですよ。
でも、ほっと胸をなでおろした穂咲と俺が。
新谷さんの言葉に、一瞬で石化しました。
「あれ、もう一度貸して欲しいんだけど!」
「…………もう一度?」
「うん! あ、それと。CDのお礼に貸したマンガ、そろそろ返してね?」
ねえ。
ちょっと君。
ぷるぷる震えながら。
俺を見上げてる場合じゃないのです。
「…………フィーバーしたの」
「三つ並べなさんな! ねえ、どうなってんのさ君のおつむ!」
「チョップしないで待って欲しいの。えっと……、えっと……」
そう言えば先月末。
何かを忘れたから俺に探せと言っていましたが。
まさかこれの事!?
そしてようやく何かを思い出したらしく。
今度は向井さんの元へ走る穂咲なのですが。
「ねえりこぴん! こないだ、マンガ貸した?」
「それよりこれ、穂咲もやってみるか?」
大慌ての穂咲をいなすように。
向井さんが手渡した物。
みょんみょんとしなる。
長い棒。
確かこれ。
トレーニング器具ですよね。
「それを両手で持って、左右に振るんだ」
「うう。なんだかすごい疲れるの」
「ははっ! 二の腕の脂肪も減るし、バストアップにも効くんだぜ?」
「ほんとなの!? 貸して欲しいの!」
「四つに増やす気ですか!」
俺がみょんみょん棒を取り上げると。
穂咲はようやく我に返って。
「そうだったの! りこぴん、マンガは!?」
「面白かったって、返した時言ったじゃないか。あたしが貸したゲームの方はどうだった?」
「結局フォアボール!」
呆れ果てて。
チョップも四回なのです。
「ま、待つの。鼻の穴から記憶が落ちちゃうの。……レイワちゃん!」
そしてとうとう宇佐美さんの元へ走り出すと。
「……聞こえてたよ。ゲーム返したじゃないか、あたしのお薦めDVDと一緒に」
「ロイヤルストレートフラッシュ!!!」
とうとう五つ並んでしまいましたけど。
ほんとにこの全てを。
君はどこかへやったというの!?
「こ、困ったの。ビンゴなの」
「君の憐れな記憶力! どうなってるのです!?」
「でも……、う、ううう……」
「泣きなさんな!」
さすがの騒ぎに。
みんなは何事かと穂咲を見つめるので。
「ええと……、まさかとは思いますが、こいつに何か貸して返してもらっていないという方は手を上げてください」
泣きべそをかく穂咲にタオルを渡しながら。
俺がみんなに問いかけると。
……上がったその数。
全部で十四本。
「天和!!!」
開いた口も塞がらず。
小さな怪盗、カリパクホサキンちゃんを見つめると。
こいつは涙も拭かずに。
タオルをほっかむりにして顔を隠します。
しょげて可哀そうではありますが。
皆さんも、いいよいいよと笑ってくれますが。
「いいえ! こればっかりは許すわけにいきません!」
お昼休みには大捜索。
そしてその前に。
こいつには反省してもらいます!
俺はみょんみょん棒を穂咲の袖に通して。
両腕を横にまっすぐにさせて。
「そのかっこで廊下に出て、しばらくカラスを追い払っていなさい! すいません皆さん! 俺が責任をもって探しますので、各々何を貸したか教えてください!」
皆さんから聞いた品々を。
携帯にメモする俺の前。
カカシがしょんぼりしながら廊下に出て。
器用に扉を閉めました。
「しかしあいつ、これだけの品をどこにやったのやら……」
「そんなに無くなるもんか?」
「家じゃねえの?」
「それが昨日、穂咲の部屋をひっくり返して俺が貸したものを探したのですが。皆さんの言うような品があったとは思えないのです」
そんな俺のつぶやきに。
冷やかす方が半分。
それならどこにやったのだと。
首をひねる方半分。
真ん丸な穂咲のカバンの中身を勝手に教卓にぶちまけても。
まるでお借りした品が見当たりません。
本当にどこへやってしまったのやら。
考え込んだ俺の耳に。
カラスとカカシのバトルが聞こえてきたのです。
「何の真似だ?」
「先生を追い払うの」
「バカもん。下らんことを言うなら立って……、る、のか。困ったな」
「追い払うの」
「しかし、なんだこの棒は。貴様は勉強に無用な物ばかり持ってきおって」
「ここがあたしの
「うるさい。これも取り上げたいところだが、貴様から没収した物が山積みになっていて叶わんからな。反省文を書いて全部持って帰れ」
「……それ、何個?」
「十四個だ」
「「「「「あった!!!」」」」」
……こうしてめでたく。
放課後になって、穂咲は全ての借り物を返却できたのですが。
どうしてでしょうね。
「こら秋山。誠意がまったくこもっていないぞ。書き直しだ」
……この貸しは。
高くつくのです。
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