4-5 社長追放陰謀、「シン・黒幕」現るw
「撤収、開始ーっ」
おどけて敬礼してみせたキラリンが、瞬時に消えた。──と思ったら、もう俺の隣に戻ってきた。
「早いな」
「あたし、パパの使い魔兼子供兼お嫁さん候補だもん。パパの命令なら、テンション上がるしねー」
鼻高々だ。
「まあもうそれでいいよ。今日は特別だ」
「やったーっ」
飛び上がって喜んでるな。
「よし」
腕を見る。
──十三時二分六秒──
「ヤバいよ、ご主人様」
「くそっ」
吉野さん装着スパイ眼鏡「お見張りくん」の配信に、スマホ画面を切り替えた。
役員会議室のバカでかい楕円テーブルが映った。役員全員並べる奴が。
吉野さんは社長の後ろに立っているようだ。例のハゲ後頭部が見えている。社長の左右や向かいに、役員が勢揃いしている。
全部で十二人。なんたって、ほぼ海外で日本には滅多に居ない、海外事業担当代表取締役常務(兼ミキモト・インターナショナルプレジデント)まで揃ってるからな。自社の一大事なんだから、当然だ。
「少し遅れましたが、臨時取締役会を始めます」
会議のファシリテーターを務める、いつもの社長室長の声がした。どうやら吉野さんの隣のようだ。画面では見えない。社長解任は確定的と諦めているのか、声にいつもの張りがない。
「よろしいですか」
画面に見えている全員が頷いた。
「キラリン、キングー。時間がない。上がりながら確認しよう」
「うん」
「はい」
「レナは飛べ。少しだけ先に行け。なにか人の出入りの気配があったら教えろ」
「はーいっ」ぴゅーん
画面を見ながら、階段を上る。駆け上がりたかったが、十二階ともなると目が回る。早足がちょうどいい。見た目子供のふたりもいるしな。
いやマジ、そこまで一気にキラリン跳躍できると楽なんだがなー。もう少し跳躍可能判定を広げられるように、マリリン博士に頼んでみるか。この際、代償に三発くらい抜かれてもいいから。
「本日の議題ですが……」
社長室長の声が、片耳無線イヤホンから聞こえる。
「臨時取締役会開催を提案なされた永野常務からは、『経営上の重大問題を会議に
「ええ、まさに……」
立ち上がった永野が、もったいぶって役員連中の顔を眺め渡した。勝利を確信した顔つきだ。
俺達はまだ三階を過ぎたところ。時間がない。
「俺は先を急ぐ。悪いが駆けてくれ」
頷いたふたりに先行し、一段飛ばしに変更した。
「我が三木本商事は、創業以来の危機的状況にあります。それもこれも現社長が、グローバルジャンプ21などという無謀な新規事業群を立ち上げたから」
言葉が染み渡るのを待つとでも言いたげに、永野は一拍置いた。続ける。
「この責任は万死に値する」
芝居じみた口ぶりだ。
「いやしかしグローバルジャンプ21でも、異世界事業は大成功した」
会長が口を挟んだ。会長は社長と泥を啜りながら出世街道を一歩一歩進んできた同志。もちろん社長派だ。
社長本人が反論しないのは当然。軽い男に思われたらむしろ「社長の器でない」と攻撃されるから。頼みは社長派の代弁ということになる。こういう会議の常道だな。
「その一点だけでも、社長の貢献は大きい。鉱物商社の我々が異世界利権を取れたのは、社内の反対を押し切り、マリリン・ガヌー・ヨシダ博士を
「ヨシダ? ああ、あの変人小娘ですか」
永野が失笑。何人かの役員が、
「あの魚臭い倉庫で我が社の利益を食い潰していると、社内から憎まれてますがね、ヨシダ博士は」
「しかし永野常務。あなたも異世界事業に興味津々だったじゃないか」
三木本商事最高財務責任者、CFOの石元が口を挟んだ。彼は元三猫銀行役員。銀行の社内闘争に破れてウチに転籍させられた「三猫負け組」だ。その経験から企業内の陰謀を憎んでおり、俺と社内安寧の秘密協力で握っている。
やはりこいつは社長派か。俺や社長、吉野さんの読みがまた当たったな。
「だからこそ、三木本Iリサーチ社役員に名乗り出たんだろ。他の何人か、陰謀仲間と共に」
皮肉な口調だ。
「その事業自体が最初から失敗だったとか、今さら言えた義理かね。永野常務」
「石元さん。あなたも私も、同じ常務取締役。少しはリスペクトしてもらえませんかね」
永野の奴全っ然、
「それに社長が大失敗したかどうかは、この場ではっきりする。役員絶対多数の不支持があることでね」
永野は、大声で言い切った。
「ここで私は、ふたつの動議を提出します」
始まったか……。
「ご主人様、早くっ」
十二階まで達したレナの声が、上から降ってきた。
「ドア外の気配を探ってろ、レナ。すぐ追いつく」
脇の扉を、俺は睨んだ。「9th floor」と描かれている。あと三フロア。そこでコンプラ担当役員兼三木本商事社外取締役である北上を取っ捕まえる。さらに役員会に出席させる説得時間がある。もう時間切れも同然だ。
「まずひとつめ。代表取締役社長・
ついに来たか……。
緊迫で静まり返った部屋に、永野の妙に高い声が響き渡る。キイキイと。
「そうしてもうひとつの動議。空席となる代表取締役社長の後任人事だが……。現・代表取締役副社長、
「えっ……」
階段を駆け上がりながら、思わず声が出た。
永野が自分で社長になる算段じゃないのか。なぜ副社長の鉾田が……。
混乱した。
画面に映っている鉾田の野郎は、素知らぬ顔。むしろ「推挙されて困ったなあ……」といった面構え。
「馬鹿な……」
んじゃあ全ての陰謀は、鉾田副社長が絵図を描いていたのか。永野じゃなく……。
「鉾田のタヌキ野郎っ!」
推察が根底から覆され、思わず唸り声が漏れた。
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