1-5 俺以外の全員が名推理www 「王女の婿当て」
「平くん」
たまらず……といった様子で、吉野さんが口を挟んできた。
「平くんよ、結婚相手」
「お……俺……」
思わず、声が裏返った。
「そんなに驚かないの。王女様にも国王にも失礼でしょ」
「その……」
ふたりとも、じっと俺のことを見ている。否定はしない。てことはやっぱり……。
「えと……知ってたんですか、吉野さん」
「今、初めて聞いたわ。でも……縁談の噂を聞いた瞬間、誰でも想像がついたわよ。……ねえ、タマちゃん」
「吉野ボスの言うとおりだ。馬鹿でもわかる」
澄まし顔で、タマは茶など飲んでいる。いや俺、馬鹿とか素でディスられてるんですが、それは……。
「ここのところ王女と過ごすことが多かった。それも国王の差配で。あれはなんだと思ってたんだ、平ボス」
「けけっ」
レナも大喜びだ。
「ご主人様、ぜえんぜん気が付かないんだもん。ボク、面白くってさ」
「えーと……その……」
ようやく頭が回り始めた。そうか。あれはそういう……。
「でも待って下さい。王女の帰還は、まだ国民には公にされてない。ましてや王女結婚なんて、国家の一大行事だ。どうするんですか、国王」
「そこよ」
我が意を得たりと、国王は頷いた。
「そこに気づくとは、さすがは平殿じゃ」
なんだこれ、今散々馬鹿にされた俺を、フォローしてくれてるんか。目一杯持ち上げて。
「シュヴァラ帰還は、まだ公にはできん。……だがシュヴァラも、こちらの世界ではもう婚姻を挙げる歳。どうにかして結婚させてやりたい。……となると、平殿なら、どのような婿を考える」
「そうですね。存在も結婚も公表できない。……ならそれをわかってくれる男でしょ」
「しかもシュヴァラは、もうひとつの世界にも生活の場がある。向こうには転生後の産みの親もな。……つまり向こうの世界で、親に祝福される相手でなくてはならん。この場合は、どのような婿がいい」
「それは……その、向こうの世界の男、それもちゃんと働いてる、まともな奴でしょ。それなら、額田家両親も納得できる」
「シュヴァラは今後も、こっちとあっちを行き来する。その場合は」
「そりゃ……向こうもこっちも知ってる男っしょ。可能なら、向こうにもこっちにも存在できるような」
「うむ……」
重々しく、国王は頷いた。
「して、これら三つの条件をまとめると、どうじゃ」
「シュヴァラ王女が額田家に転生したことを知っていて二重生活にも理解があり、向こうとこっちを行き来できる、現実世界の男」
「平殿以外に、誰かおるかな」
「……」
言われれば確かに。王女の結婚相手としてもっともふさわしいのは俺だ。栗原とかは転生は知らんし。
「でもその……、事は結婚だ。タマゴ亭さんの気持ちはどうなんだ」
「あらあたし、前世はここの王女だよ。どこぞの国の会ったことすらない王子と、国のために結婚する。そんなのは、王族なら普通の話。あたしだって覚悟はできてる。あたしの気持ちなんか関係ないよ」
けろっとしてるな。茶のカップを口に運ぶと続ける。
「それにあたし、平さんのこと、嫌いじゃないし。好きと嫌いのどちらかを選べというなら、好きの部類。こっちの世界でタマゴ亭支店を一緒に作り上げた頃から、平さんのリーダーシップに感心してたし。それに……」
少しだけ、頬が赤くなった。
「それに憧れた。あたしみたいなやんちゃ娘、平さんに引っ張ってもらえたら、幸せになれるかもって。だからきっと……すぐ、ものすごく好きになる。平さんのこと。毎日添い寝してもらいたくなるくらい」
「こっちの世界だけならまだいい。でも現実世界も絡む話だ。俺には嫁がたくさんいる。しかも現実世界でも吉野さんが、俺の実質嫁だ。父親にも祝福されてるし……」
「今度向こうの世界の両親に、平さんを紹介するわ。あたし、平さんと結婚して、一緒に住むって」
「え……」
「三木本商事でシニアフェローを張るエリートだよ。お父さんもお母さんも、反対するわけない。高卒のあたしだよ。よくぞいい男を捕まえたって、むしろ大喜びするわ。もう絶対」
「でもその……それだと吉野さんと重婚……」
「婚姻届を出さなければいいだけよね。それなら合法。あたしは向こうでお姫様じゃない。下町の仕出し屋の娘だよ。男と事実婚とか、今どき普通の話でしょ」
「でもその……吉野さんは……」
俺と目が合うと吉野さんは、ほっと息を吐いた。
「私にタマちゃんレナちゃん、トリムちゃん。あとダークエルフのケルクスさんも、平くんのお嫁さん。エンリルさんに到っては、平くんが孕ませた。それに今度幼いサタンちゃんも、お嫁さんにするんでしょ。他の娘も列、作ってるし」
俺をじっと見ている。特に怒っているわけではなく、瞳は微笑んでいる。
「今更ひとりくらい増えたからって、なに?」
「それは……その……」
「それに額田さん、しっかりした女子だし。一緒に暮らしたら頼もしいわ」
「あたしも、吉野さんと一緒に、平くんのマンションで晩御飯作りたいな。みんなでわいわい、楽しくやってるんでしょ。話は聞いてるもの」
もう少しだけ、またしても頬が赤くなった。
「レナちゃんからも聞いてる。その……ベッドでの平さんのこと……」
レナの野郎。なに教えたんだか知らんが、いくらサキュバスだからって、余計なこと誰でも彼でも吹き込むなっての。
「まっこと、平殿は男じゃのう」
マハーラー王は、豪快に笑った。
「我がシタルダ王朝歴代の王でも、これほどモテるのは、初代ゴータマ以来であろう」
いやお釈迦様に並べられるとか光栄だけど、女癖が悪いって話だから微妙だw
「じゃあまさか……俺が王女と……マジで結婚……」
「よろしくお願いします、平さん」
シュヴァラ王女は、頭を下げた。
「正式な婚姻は、いずれ。でももうお互い、事情はわかり合った。あたし今晩から平さんと一緒に暮らすわ。それで事実上の嫁になってから、次の日曜日、現実世界の家ね。ふたりで結婚の挨拶をするから」
「いやいやいやいや……」
「ふつつかで到らない嫁ですが、これから一生、よろしくお願いします。あたし、平さんやみんなを、全力で支えるから」
もう一度、王女は頭を下げてきた。
「あと今晩、優しくして下さいね。初めてだから、ちょっと怖いし」
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