7-2 午後半休

「平……平ぁ……」


 俺の胸に顔を押し付けたまま、トリムは泣いていた。


「ずっと……ずっと夢見ていたよ。こうして平と抱き合える日を」

「俺もだ」

「この匂い……平の……好き」

「良かったわね、トリムちゃん」


 吉野さんの瞳も潤んでいた。復活後いきなり俺をひっぱたいたトリムだが、すぐに抱き着いてきて、ずっと泣いている。まあ……そりゃ久しぶりに肉体が戻ったんだものな。言いたいこと、したいことは山ほどあるだろうさ。


 トリムを抱いたまま、俺は背中をさすってやった。


「トリムが命を捨ててくれたおかげで、こうして全員、生きている。……お前の功績だ」

「いいんだよ平」


 涙を拭いた。


「あたし、ヴァルハラで祖霊と語り合えたもの。みんな、あたしを温かく迎えてくれた。仲間と連れ合いを守り戦いに倒れた、誉れある死だと言って」


 複雑な笑みを浮かべる。


「……でも平が毎日みんなとエッチなことするシーンを、祖霊も微妙に張り付いた笑顔で見てたけど」

「あれ見られてたんか。エルフの過去の英雄とかにも」

「だって平があたしのこと寝台に持ち込んだし」


 なんだよ監視カメラみたいなもんかよ、あの珠。俺が吉野さんに肛門を舐めてもらったのとかもガン見されてたってのか……。


 恥オブ恥。死にたくなってくる。


「まあいいではないか、平よ」


 エンリルがとりなしてくれた。


「ではトリムは余のことも知っておるのだな」

「エンリルだよね。ドラゴンロードの。……婚姻形態がこんなにかわいいなんて、すごいよね」

「うむ。余も平を愛しておるからのう……。だからかわいくなれたのであろうよ」

「それよりこれからどうするの、ご主人様」


 レナはトリムの肩に立っている。やはりなんだかんだ、側にいたいのだろう。


「そうだな……」


 俺は見回した。俺の仲間、ドラゴニュートの長であるドライグ、トリムを復活させてくれた魔道士グローアが、俺の言葉を静かに待っている。


「ドライグ、この大陸で俺達の拠点を、ここに置きたい。マナ豊富だし、周囲は山と海で守りも堅固だから。許してくれるか」

「もちろんだ。平の仲間は里の救世主。断るわけがない。ドラゴンロード様もおられるし」

「ここには宿はない。孤立しているので。だから平様の住まいを、村の皆と一緒に作っておきましょう」


 グローアが太鼓判を押してくれた。


「頼むよ。……俺達はしばらく他の地に飛んで、あれこれ用足しをしておく。その間になんとかしておいてくれ」

「任せろ」

「平ボス、どの地に赴くのだ」

「それはだなタマ、シタルダ王宮さ。ここ異世界の、俺達専用クラブハウスがある。あそこにしばらく滞在して、トリム復活祝いをしようじゃないか」

「いいわね」


 吉野さんが微笑んだ。


「それなら何日かの出張届を出しておくわ。ふたり分の。その間は現実世界に戻らなくて済むように」

「頼みます」

「国王やタマゴ亭さん……つまりシュヴァラ王女や、それにヴェーダ図書館長にも会えるね、お兄ちゃん」

「そういうことさ、キラリン」

「あたしあの図書館長苦手なんだけど……」


 トリムが苦笑いを浮かべた。


「だってあの人、エルフ大好きでしょ。あたしの体、食い入るように見てくるし」

「そのくらい許してやれ。もうじいさんだ。それにあいつ今は、エルフの文通相手がいるからな、行商人の。トリムだけに執着はしないだろうし」


 と思う。楽観的に過ぎるかな。あいつエルフスキーのエロじじいだし……。


「ならお兄ちゃん、そろそろ飛ぼうか」


 キラリンに手を握られた。


「どこに行く? 王宮にすぐ飛ぶの?」

「いや……」


 トリムの頭を撫でてやった。


「今日の業務はもう終わり。午後半休を取るわ。みんなを先にマンションに飛ばしてくれ。俺と吉野さんは正規ルートで異世界通路に戻る。半休届を出して、マンションに帰るからな。今晩は……大宴会だぞ」


 俺の言葉に、大歓声が上がった。

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