8 聖地のほころび

8-1 ハイエルフ聖地の駄菓子カステラ

「そうなのよ、あたしも困ってて」


 ハイエルフ聖地の巫女の館。俺達を迎えた巫女トラエは、例によって寝転んだまま土産のスイーツをつまんでいた。


「うん。このプリンキャンディーっての、おいしいね。甘くていい香り」

「それでさ、どういう敵なんだよ」

「なんか突然変異したコボルトらしいよ」

「コボルトってことは、子鬼系か」

「ノームやゴブリンに近い種族よね」


 吉野さんは眉を寄せた。会うのも嫌なんだろう。なんせ自分の使い魔候補のひとつがゴブリンだからな。嫌すぎて召喚してないけど。


「伝承によっては、ノームやゴブリンと同一視されてるよ、吉野さん」


 さっそく、キラリンが脳内検索する。地下に棲んでるしな、コボルト。


「元素のコバルトは、コボルトから命名されたんだよ」

「自動検索ご苦労」

「コボルトなら、たいした敵じゃないだろ」


 これまでもあちこちで戦ったことがある。ざっくり分類すれば雑魚だわ。


「婿殿、敵を侮るな」


 ケルクスに諌められた。


「多数の敵が、穴に隠れて襲ってくるのだ。対処は難しい」

「平ボス、それに突然変異というのが気になる」


 タマも付け加えた。このふたり寡黙で無骨な戦士だけに、妙に気が合う……じゃないか、意見が合うんだよな。


「どういう突然変異なのでしょうか」


 キングーが尋ねる。小さなカステラの駄菓子を、トラエは口に放り込んだ。


「うん、これもおいしい。……なんというか素朴な味で」


 どっこいしょっと、起き直る。俺達が持ち込んだペットボトルの炭酸飲料を飲んで。


「コボルトは普通、ちょっとした幻術程度の技を使うんだ。いたずらする程度の。でもこの子達は、いろんなタイプがいて」


 ふうと息を吐いた。


「そこそこ強い魔法を使うタイプ、ボウガンのような小型射出武器を使うタイプ、それに毒を吐くタイプもいる」


 それぞれがまとまっていて、小集団を作っている。それが穴から出たり入ったりして襲ってくるのだという。


「これは……厄介そうですね」


 バンシーのエリーナが唸った。


「どう思いますか、平さん」

「そうさな、コボルトパニック、コボルト叩きみたいなもんだなあ、こりゃ」


 ゲームセンターのゲームを、俺は頭に思い浮かべた。


「個別に戦っていては埒が明かないな。レナ、どう考える」


 床に直あぐらで両手に抱えたカステラをかじっていたレナが、顔を上げた。


「ご主人様の言うとおりだよ。コボルトだから個々はたいした脅威じゃない。でも集団で襲われる、しかも敵は神出鬼没となると、面倒だね」

「平ボスの認識は正しい。あたしや平ボスの個別戦闘より、魔法による集団対処が楽だろう。幸い、敵の耐久は低い。範囲魔法で多くをなぎ倒せるはずだ」


 砂糖をまぶしたカステラをひとつ、口に放り込んだ。


「ははら、はらんとへるふふに働ひてもらはなひと」


 もぐもぐしてるが、おおむね、なに言ってるかわかるな。いや今回駄菓子カステラ人気だな。また持ってこよう。


「問題はいくつかあるな」


 俺は課題を挙げた。


 まず、敵が巣穴に籠もっており、ヒットアンドアウェイ戦法を取っていること。戦闘でこちらが有利だとしても、根絶は難しい。対シロアリ戦みたいなもんだからな。


 次に、敵にアーチャー……というかボウガン使いが多数いること。地の利は向こうにある。こちらを取り囲んで穴から顔を出し、四方八方から一斉に矢を射たれたら、対処は難しい。


「それならあたし、いいアイテム持ってるよ。うってつけの奴」


 得意げに、トラエが頷いた。


「ハイエルフは対象外だから、これまで使えなかったんだ。でも平なら大丈夫っしょ。平はお姉ちゃんの婿なんだから、聖地パワーも味方するだろうし」

「む、婿とかっ!」


 飛び上がったトリムが、腕をぐるぐる振り回した。


「あ、あたしたち、まだ正式に結婚したわけじゃないし」


 トリムの頬は、みるみる赤く染まった。




●すみません。7月15日までの島流し期間中、「即死モブ転生」隔日公開でいっぱいいっぱいでした。本作は多分次話更新が7月後半になります。その間、「即死モブ転生」をお読み下さい。それか本作過去話か。伏線等の関係があり、割と過去話は書き換えてます

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