7 魔王サタンと、爺様の隠された人生
7-1 魔王サタン召喚
「さて……と」
俺は周囲を見回した。ウルク沙漠中央部。うららかな午後。今日いよいよ、サタンを召喚する。
グレーターデーモンも使い魔候補から消えちゃったし、サタンに殺される危険を冒してでも、召喚して使い魔にするしかない。そうして対抗しないと、魔族軍率いるルシファーに、この世界が
「始める? ご主人様」
例によってレナは、俺の肩に腰掛けている。
「まあ焦るな。まず落ち着こう」
「そうだね。焦ると普段の力が発揮できないもんね。なんだっけな、脳の前頭葉がショートして脊髄反射的に――」
「もうわかったから黙れ」
まったく。マリリン博士のところで仕入れるのかしらんが、知識豊富になりやがって。そこでペラペラやられたら、余計落ち着かんわ。
「魔王サタン……か」
手元の異世界スマホ画面の説明に今一度、目を落とした。使い魔召喚モードが起動している。「使い魔候補」サタンの説明を読んでみる。
――サタン――
魔王。そもそも闇のモンスターを使役する頂点の立場である。そのため使い魔として召喚しても、使い手に従うことはなく、思い通りには絶対動かない。
魔王だけに当然、なにかにつけ隙あらば、使い手を地獄に叩き落とそうとする。
ただ魔王に限らず悪魔系モンスターは契約だけは守る。うまく丸め込んで有利な契約さえ結べれば、ワンチャンある。
とはいえ相手はイカサマ契約のプロ。一見おいしげな話でヒューマンを取り込んで、その契約に仕込まれた危険な抜け道を利用して相手を地獄に引きずり込むのが、よくあるパターン。
この間メモリーに取り込んだ漫画もそんな展開だったし。「猫のせぇるすまん」とかいう奴。あんたには超ムリムリーw
「うーん……」
やっぱ厳しいわ。
「今日は止めとく?」
レナが俺の首を抱いてきた。
「今晩、ボクがご主人様を勇気づけてあげるよ、ベッドで。それからでもいいんじゃないかな。明日でも」
「そうは言っても、もうみんな揃ってるしさ」
「まあそうだね」
俺は背後を振り返った。
「そろそろ喚ぶぞ」
「頑張ってね、平くん」
「心配するなボス」
「大丈夫。なにかあれば、いつでも弓射つし」
「あたしも魔法を連発するぞ」
俺の大声に、仲間が応えてくれる。
「はようやらんか、平。余はもう待ちくたびれたぞ」
「たしかに。こんなに時間を取るなら我も、待ち時間にふみえにマッサージしてもらいたかったわ」
ぶつくさ言っているのは、ドラゴン二体だ。
頭が回るレナは、サタン説得の補佐役。それ以外、関係者は背後に控えてもらっている。吉野さんとタマ、トリムにケルクス。それにキングーとエリーナ、キラリン。……だけではない。ドラゴンロードのエンリルとグリーンドラゴンのイシュタルにも、頼み込んで同席してもらっている。俺の関係者、総揃いって奴よ。
なんたって相手は魔王だ。召喚して速攻瞬殺されるわけにはいかない。ドラゴンが俺についていると知れば多少は説得時間をもらえようという、セコい戦略だ。
「じゃあ行くぞっ」
「もう五回くらい聞いた気がするのう、イシュタル」
「そうですなあ、エンリル」
あくびなんかしてやがる。くそっ。こっちは生きる死ぬだってのに、緊迫感のないドラゴンだ。
「……」
俺は、召喚アイコンをタッチした。
――サタンでいいですか はい/いいえ――
「はい」……っと。
「ドンっ!」
目の前の大地が突然割れ、煙が激しく噴き出した。真っ黒。闇夜の黒猫のように光を全て吸い込んでいる。
「ご主人様……」
レナは不安げだ。なんせ全員殺されるかもしれないんだ。俺も不安だが、ここは落ち着かないと。
「大丈夫だレナ。気を鎮めろ」
「うん」
焦っているとナメられて足元見られるからな、サタンに。ルシファーに追われたとはいうものの魔族の王だけに、相手は狡猾だろう。隙を見せないようにしないと。
「平くん」
吉野さんの声だ。
「大丈夫です。イシュタルの側にいて下さい」
注意深く、煙から目を逸らさないようにして返事する。
「うん」
イシュタルも、自分のドラゴンライダーくらいは守ってくれるだろうしな。なんとなれば乗せて逃げちゃえばいいんだし。
「大きい……」
ずっと上まで広がる煙を、レナが見上げた。たしかに、五メートルはある。
「サタンって、身長何メートルあるんだろ。……使い魔にしてもマンションに入らないね、ご主人様」
なんだ、そんなどうでもいいことを心配してたんか。
なんかおかしくなって、少し肩の力が抜けたわ。ありがとうな、レナ。
「見ろ。形になるぞ、レナ……」
高く上った煙は、生き物のように姿を変え、今度は幅を取り始めた。ぱっと見、五×三メートルってところだ。さすがサタン、とんでもなくでかいな。
「ご主人様、説得の手順を思い出して。もう出てくるよ」
「わかってる」
すうっと煙が薄れ、中に人影が浮かんできた。と思う間もなく、一気に煙が消え去る。人型モンスターが姿を現した。垂れていた頭を上げると、瞳が開く。こいつがサタン? いやこいつは……。
「ふむ……」
そいつは、周囲を見回した。
「お前が召喚したんだな」
燃えるような真っ赤な瞳で、俺をまっすぐ見つめてきた。
「あ、ああ……」
「ドラゴンまで用意するとは……」
苦笑いしている。
「度胸のない奴よのう。……まあ木っ端ヒューマンが大魔王サタンを前にしたのだ。恐れおののくのも、当然かもしれんな。ヒトというのは弱いものよ」
含み笑いなんかしてやがる。
「てか、お前誰だよ」
こらえてはいたんだが、とうとう口を
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