ep-12 ヴェーダ図書館長のメール友達

 失われたエルフ、アールヴがドラゴンに似てるって、どういうことだ。


「それどういうことなんですか。ヴェーダ図書館長」

「それはの、宝を溜め込む習性があるということじゃ」


 はあ。たしかに、ドラゴンは一般に強欲で、貴重なアイテムやアーティファクトを溜め込んでると聞いたことがある。俺と因縁のあるドラゴンロードのエンリルやグリーンドラゴンのイシュタルがどうかは知らんけど。……今度、訊いてみるかな。


「てことは、アールヴの遺跡には、お宝がいっぱいということか」

「じゃろうなあ。……平殿、アールヴの遺跡を探る気なのか」

「どうすべきか考えてはいます」

「ねえ平、行ってみようよ」


 トリムが割り込んできた。


「あたしもエルフとして興味あるし。たしかに危険かもしれないけど、行けるところまでってことで」

「そうだよねー」


 レナが参戦する。


「ご主人様の延寿には、アールヴの宝珠がぜひ欲しいし。……行ってみて魔族やらなんやらで厳しかったら、逃げ戻ればいいだけだし」


 たしかに、それはそうだ。


「行きましょう、平さん」


 キングーが続ける。


「僕も命を懸けてお助けします。邪の火山では有毒ガスが生じると言います。でも僕がいれば、ガスは無効化されますし」


 たしかに。アスピスの大湿地帯を抜けたときも、キングーの力で毒の障気を避けられたしな。


「ねえ平くん。ダークエルフのフィーリーさんは、邪の火山は平くんと運命の因縁があるって言ってた。行けば貴重な出会いがあるとも。……なら、とりあえず行ってみることに、私も賛成する」

「そうですね、吉野さん」


 あれなー。たしかに俺も気になってはいる。行かないともう一生出会いがないとも言ってたし。行きたくなってるのはたしかだ。


「あら、平さん」


 入り口から、タマゴ亭さんが入ってきた。今までいなかったのは多分、王宮でマハーラー王と会っていたからだろう。親子の語らいって奴で。


「今日はなに」

「ちょっとヴェーダ図書館長に話が」

「ここに来たのは正解ね。もう図書館よりここにいる時間のほうが長いし」


 呆れたように、腰に手を当てている。


「ああニーラさん。今日の突き出し、仕込み終わってる?」

「はい店長。三十人前くらいは」

「それでいいわ。満員御礼で足りなくなったら、野菜の浅漬けを突き出しにしてね」

「わかってます」


 さすがタマゴ亭さん。店の仕切り、ばっちりじゃん。


「そういやヴェーダ様、エルフのラップちゃんはどうなったんでしょうか」

「ラップちゃんか……」


 にやりと笑うと、懐からなにか、透明な玉を出した。ゴルフボールくらいの大きさだ。


「なんですか、これ」

「水晶玉じゃ。エルフのアイテムで、これを通じて遠距離通信ができる」

「はあ……」


 よくわからんが、衛星電話みたいなもんか。


「つまりのう……」


 うまそうにビールを飲み干す。


「これでわしもメル友じゃーっ」

「はあ?」


 そんな単語、どこで知ったんだよ。やっぱタマゴ亭さんこと、シュヴァラ王女からかな。


「要するに、ラップとは連絡を取り合っているということか」

「いかにも」


 嬉しそうに頷いた。


「わしのガールフレンドじゃからな」

「はあ……」


 ヴェーダは鼻の穴をおっ広げている。まあ楽しそうなんだ、否定はしない。でもそれこそ後期高齢者と見た目二十歳そこそこのエルフだからなー。釣り合い的にどうなんだっていう気はするわ。


「で、ヴェーダとの話は終わったの」

「はいタマゴ亭さん、だいたい」


 タマゴ亭さんが王女シュヴァラの転生姿とは、一般には公開されていない。ここ王都では、「異世界の凄腕料理人」額田美琴ぬかたみこととして暮らしている。


「じゃあ、今日はもう仕事終わりね」


 タマゴ亭さんは、店内を見回した。


「ならせっかくだから、仕事の定時までここで飲んでってよ。あたしも付き合うからさ」

「いいんですか」


 吉野さんが心配した。


「平気平気。ここもう、あたしが居なくても回るようになってるし。あたしも、吉野さんや平さんと飲みたいし。……お父様にも、平さんやみんなと仲良くするよう、命じられてるし。従わないと怒られちゃう」

「でもタマゴ亭さん、未成年でしょ」


 俺のツッコミを、大声で笑い飛ばした。


「こっちの世界に未成年とかないし。それにあたしももう十九になった。あっちの世界でだって、大学に行ったら十八で飲み始めるでしょ。厳密に言えば違法だけど、もうじき十八歳成年制になりそうだし、たいして問題じゃないよね」

「まあ……」


 それもそうか。俺も飲み始めたのその頃だわ。最初は慣れなくて、よく吐いたがなー。今はもう、記憶がなくなるほど飲んでも、絶対吐かないのは謎。人間の体って、よくできてるわ。


「じゃあやりますか。……いいですか、吉野さん」

「いいもなにも。いっつも午後は遊んでるだけじゃない」


 普通にツッコまれた。それもそうだ。


「よし。飲もう」


 トリムとキラリンが歓声を上げた。


「じゃあ、ビールもらってくるねっ」


 頷き合うと、ふたりで厨房に突進する。タマはタマで、仕込み中でてんてこ舞いの厨房に、マタタビ野菜炒めをお願いしてるし。なんたって店長が了解して同じテーブルに着いている。嫌も応もなく、鍋に油と野菜、マタタビが放り込まれた。


 キングーと吉野さんが、各人のグラスを並べている。


 今日はここで宴会か。


 俺も楽しくなってきた。ふと、脳裏にダークエルフの「俺の嫁」、ケルクスの姿が横切った。


 あいつともここで、一緒に飲みたかったな。


 強がってはいても、孤児暮らしだからな。


 トリムこそ微妙な感情を抱いているようだが、それでも別に敵ってわけじゃない。他のメンバーはむしろ歓迎だろう。なんせ、火山の女神ペレ戦で共に戦い、あまつさえ俺の命を助けてくれた恩人だ。


 よし決めた。近々、ケルクスとパーティーの宴会をしよう。地下迷宮のドワーフのところがいいかもしれない。エルフとドワーフの遺恨解消にも役立つだろうし。


 嬉しそうにトリムが抱えてきたなんちゃってビールを飲みながら、俺はそんなことを考えていた。

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