3-5 大河渡河作戦

「これが『橋』?」


 トリムが素っ頓狂な声を上げた。


「橋というか……残骸に近いな」


 道中足を取られる湿地や岩場越えがあり、結局橋に着くまで四日ほどかかった。幸い、たいしたモンスターは出なかったんで助かった。初見のモンスターがポップアップしたのは一度だけ。泥人形みたいな奴で物理攻撃が効きにくかったから、距離を取って火炎弾で対処した。


 ここまではなんとかなったわけだが、ここに来てこの始末だ。トリムじゃないけど、これ本当に橋か?


 いつ作られたのかもわからないほど古ぼけた橋は、たしかに対岸まで繋がってはいるさ。でも橋桁の木材が明らかに腐ってて、ところどころ外れて流されてしまっている。通行部は、交易に使ってたくらいだから車がすれ違えるくらい幅広いが、高台から見下ろした感じ、こっちも腐り方が激しくところどころ失われており水面が見えている。


 ひどいところだと桁も板も落ちてしまっていて、かろうじて縦板だけが残されている。結果、平均台くらいの幅しかない部分が、ざっと二十メートルくらいもある。手すりすらない。強い川風に煽られたら、一発で川に落ちちゃいそうだ。


「どうすんの平」

「どうするもこうするも、通るしかないだろ。他に道はない」


 橋自体の長さは百メートルくらいだと思う。注意して進めばなんとかなるとは思うが、かなり危険なのはたしかだ。


「一見無事に見えるところも渡し板が腐ってる可能性がある。踏み抜くと川に落ちるから、注意して進もう」

「ご主人様、問題はあの細くなった部分だよ」

「だよなあ……」


 考えた。タマとトリムはバランス感覚が段違いだから、まず問題はないだろう。なんならケンケンでも渡れるくらい楽勝だろうし。でも俺と吉野さんはそうはいかない。どちらかが川に落ちる可能性は高いと考えられる。


「平ボス。ふみえボスはあたしが手を引く。なんとか抜けられると思う」

「タマが吉野さんなら、平はあたしが引っ張る。ハイエルフのバランス感覚、見せてあげるよ」

「ふたりの提案には感謝するが、多分それじゃあ足りない。木に水垢がついてぬめぬめしてるところに横風が吹けば、多分揃って落ちるだけだ」

「じゃあどうするのよ」

「平くん。ドラゴンさんには頼れないし、もっと上流に行ってみたらどうかな。アーサーさんの話だと、橋は一本だけじゃないってことだったし」

「吉野さん、それも難しいと思うんです」


 俺もそれを考えてはみた。ただ次の橋まではかなりの距離と聞いている。初見モンスターの危険性が高いエリアをそこまで進み、挙句の果てにその橋もこれと同レベルの崩れ方という可能性は高い。なんせ放置期間は大差ないだろうしな。


 そう話すと、吉野さんも同意してくれた。


「でも、じゃあどうすれば……」

「そうですねえ……」


 ああでもないこうでもないと考えているうちに、いつぞや見た写真が頭に浮かんだ。


「なあレナ。みんなを紐で結び合うってのはどうかな。向こうの世界の登山とかだと、厳しいところでそうやる場合もあるみたいだし」

「一直線に繋げるんだね、ご主人様」

「ああそうさ。それなら、誰かひとりが足を滑らせても、他のみんなで支えられる。なんとか川に落ちずに済むだろう」

「いいアイデアだと思うよ。あとは紐をどう調達するかだね。ボクたち持ってないから」

「あたしとタマなら作れるよ、平」


 トリムが提案してきた。


「タマは自然の中で生きる種族だから、そういった日用品は自給自足してたはず。あたしたちエルフやハイエルフは、工芸品的な武器や防具を作るのが趣味だったり仕事だったりするし。彫金に関してはドワーフに劣るけど、紐くらいなら楽勝かな」

「トリムの言うとおりだ、平ボス。……ただ、紐を作るには繊維のしっかりした植物が必要だ。見える範囲には、そんな植物は生えていない。ここまでの道程でも見かけなかった。気候的にあるとは思うので、数日、周辺を探索したい」

「慌てるなふたりとも。俺と吉野さんは毎日向こうの世界に帰る。あっちの登山用具店で買ってくるよ。明日一日くれ。向こうでいろいろ揃えて持ってくるから、明後日、渡河に挑戦しよう」

「そう言えばそうか」


 トリムはぺろっと舌を出した。


「今晩も平の家でなんちゃってビール飲むしね。忘れてたよ、いちばん大事なこと」


 それが一番大事なのかお前。安上がりでいいなw 好物のケチャップスパも作ってやるわ、ついでに。


「俺んちの近所にガチ系アウトドアショップがある。そこで聞いてみるわ」


 前に吉野さんの異世界ウエアを一緒に選んだ店だ。あっこ行けばなんとかなるだろ。


「なんならついでに、みんなの水着も新調してくるけど」

「それはいいでしょ平くん」


 吉野さんは呆れ顔だ。


「沖縄用にあれこれ揃えたばかりじゃない」

「そうでした。へへっ」


 まあでも、別バージョンの水着も見てみたいけどなあ……。妄想のネタにするためにも。


「いいかみんな。水着は次のチャンスだ。がっかりするなよ」


 がっかりしてるのはお前だけだろ――という顔を、トリムがした。タマも。黙ったまま、レナも俺の胸から見上げてる。あー吉野さんもか。……全員だな。


 しくったわ。リーダーの尊厳がwww

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る