ep-7 王都を離れ、蛮族の地に向かう朝に、俺達は…… ●第二部完結●

「じゃあ平さん、気を付けてね」


 王宮を出て王都城門に向かう道すがら、タマゴ亭さんに手を握られた。


「あたしこれから、店の建築現場仕切るから、ここで」


 そのまま、じっと見つめられた。マハーラー王やアーサーやミフネなど王家の連中とは、王宮内で別れた。王家の有名人総揃いで城下を練り歩くと、大騒ぎになるからさ。


「ほんとにいろいろありがとう。あたし……逃げた王女の身の上だから申し訳なくて、お父様や王家の人達と再会するの嫌だったんだ。本当は会いたいのに」


 心なしか瞳が潤んでる。


「でも平さんと吉野さんが、あたしの背中を押してくれた。お父様やミフネたちと再会できて、あたし、なんだか重荷から解放された気持ち。すっごく楽になった」

「良かったですね」

「だから本当に感謝してる。一生の恩を感じてもいる」


 じっと見つめられた。優しく握ってきた手も放さない。


「蛮族の地は大変でしょ。幸い定時で毎日日本に戻れるんだし、たまにはここや跳ね鯉村にも飛んできてね。あたし……待ってるから。平さんと……みんなを」


 ぎゅっと強く握られた。


「泣いちゃうから、ここでね」


 くるっと後ろを向いた。


「平さん、吉野さん。また明日ね。朝、おいしいお弁当持って三木本Iリサーチ社に顔出すから。明日はタマゴ亭渾身のおろしトンカツ弁当だよっ。サービスでマタタビも入れとくから」


 後ろ姿でそれだけ言い残すと、走っていってしまった。


「へへーっ」


 レナが嫌な笑顔を浮かべた。


「なんだよレナ」

「ご主人様、今、心揺れたでしょ」

「バカ言うな。これからだって毎朝会えるのに」


 笑い飛ばしたものの、なんだかきゅっとしたのは確かだ。なんだろこれ。


「俺はただ、トンカツ弁当早く食べたいだけだ」

「はうーっ! マ、マタタビ……」


 タマが悶絶してるなw


「早く追いかけよう、平ボス。今から作ってもらうんだ。はうーっ」


 ヘンな声出して、そわそわしてやがる。


「焦るなタマ、トンカツは逃げない」

「で、でも、マタタビは逃げるかも」


 おろおろしてるな。マタタビが絡むとタマ、いつもの冷静な判断力と理性を失うからなあ……。


「さあ行くぞ」


 俺は太陽を見上げた。午前十一時の、まぶしい空を。東京は真夏になるってのに、ここ異世界はいっつも春みたいな気持ちいい陽気だな。


「城門から街道筋に抜けたら、木陰を見つけて弁当にしよう。腹減った」

「もう食べるの?」


 吉野さんが首を傾げた。


「大丈夫。今日はもう一食分余計に弁当作ってもらってるんで、三時のおやつにまた食べましょう」

「あきれた。朝ご飯ちゃんと食べてる? なんなら私が毎日ご飯作ってあげようか?」


 アブナイ線に突っ込んでくるなあ、吉野さん……。


 まあ笑われたが、吉野さんは俺の判断に従ってくれる。弁当タイムだってみんな仲良く談笑しながらだしな。あー午後はもちろん休憩と遊びだ。一日の地図作りノルマは午前の二時間だからな、俺ルールでは。


 アーサーの話だと、水がきれいで風呂のように温かく穏やかな小川が近くにあるそうだ。だから、そこで水浴びだな。もう俺、全員分の水着用意してあるしw


 タマやレナのいつもの水着だけでなく、吉野さんには新作水着を奮発した。


 あーもちろん、トリムの分のコスプレ衣装――じゃなかった水着も、ちゃーんと見繕ってあるぞ。もちろんエロい奴な。水着見たときのトリムの反応が楽しみだわ。ハイエルフのエロ水着姿とか、エルフスキー図書館長のヴェーダ老に見せたら面白そうだわ。


「ねえご主人様」


 城門を抜けたあたりで、レナが俺を見上げてきた。


「なんだレナ」

「混沌神を倒して、王宮までドラゴンに送ってもらったよね」

「ああ」

「それで別れるとき、ドラゴンロード、ご主人様になにか耳打ちしてた」

「そうだな」

「あれ、なんて言ってたの?」

「それはな……」


 考えた。ここにいるのは全員、俺の大切な仲間だ。打ち明けてもいいだろう。……別に秘密にするようなことでもない。


「ドラゴンロードは言ったんだよ。余がドラゴンライダーとして平を受け入れたからには、お前はもう、余の一部だ――とな」


 俺達ヒューマンの寿命は、ドラゴンにしてみれば「一瞬」と言っていいほどに短い。ましてや俺は命を五十年も失った身。その仮初かりそめの短い間だけなら、俺に付き合ってやってもいいと、ドラゴンロード――狂飆きょうひょうのエンリル――は言ってくれた。まあここの部分は、みんなには内緒だが。


「うわっ奇跡」


 トリムが絶句してる。


「それすごいじゃん。ドラゴンロードは孤高の存在だから基本、他人とは関わらないんだよ。あたしたちハイエルフの長い歴史でも、そんな話は聞いたことないし」

「まして平ボスは、ただのヒューマンだしな」


 マタタビショックからようやく立ち直ったらしいタマが、憮然と口を挟んできた。


「普通、ドラゴンロードと会話すら許されない身の上だ。それだけでなく、レベルは天と地ほども違うし。いくら平ボスもレベルアップしたとはいえ、桁が十は違うだろう」


 そんなかよ。どんだけ高レベルなんだ、ドラゴンロードって。


「そんなら、タマのレベルはいくつなんだよ」

「感覚的には、平ボスの二桁上だな」


 そっかーw レベルアップしたとかレナにほめられて喜んでたけど俺、タマよりはるか下じゃんwww レナの奴、優しいな。


「ただまあ、平ボスはレベルは低くとも、とてつもなく強いし魅力がある。あたしは認めてるし、頼りにしてる」


 いつも寡黙なのに、珍しく俺を上げてくれた。


「リーダーとしても、……その……なんだ」


 黙ってしまった。


「それよりご主人様」


 レナが胸から身を乗り出した。


「ドラゴンロードの言い方、ご主人様をただ認めただけじゃないかもよ」

「へっ?」

「ねえ、そのスマホみたいなの起動してみて。使い魔選定のところ」

「スマホか……」


 レナに急かされてスマホ的「社畜謎デバイス」を取り出してみた。そういや、地図モードだのは頻繁に使ってたけど、使い魔選定モードは放置してたわ。もう三体全部と接触だけはした。二体成功一体失敗で、結果だけ何度見ても意味ないからな。


「えーと……使い魔選定……っと」


 アイコンをタッチして使い魔選定モードを起動する。


 使い魔候補が出た。




ドラゴンロード(仮契約中)

ハイエルフ(契約済み)

サキュバス(契約済み)




「えっ!?」


 おいおい。ドラゴンロードのところ、召喚に失敗して食われそうになってからずっと「召喚保留中」だったのに……。いつの間にか「仮契約中」になってるじゃん。


「仮契約になってる。……どういうことだよ」

「やっぱり」


 レナはうんうん頷いている。


「すごっ!」


 トリムが叫んだ。


「前代未聞だよっ。プライドのめちゃくちゃ高いドラゴンロードが、なんで平みたいな木っ端ヒューマンの……」


 絶句したな。


「やっぱあたしが平を好きになったのは、レベルや種族を超える謎の力が平に……」


 なんかまたぞろ勘違いしつつ謎告白してるなw 意外に天然なとこあるわ、高貴なハイエルフのくせに。


「ご主人様」


 レナが解説を始めた。


「仮契約ってことは、基本的には使い魔になってくれたってことだよ」

「俺が? ドラゴンロードの使い手になれたったのか?」

「基本的には、だよ。仮契約だから自由に呼んで使役するのは多分無理だけど、ご主人様の危機には馳せ参じてくれるはず」

「そうなのか……」

「平くん、凄いじゃない」


 スマホを覗き込んで、吉野さんも感心してる。


「さすが平くん。私が好きになった人だけあるねっ」


 俺の腕を抱いてきた。


「よ、吉野さん」


 あんまり積極的にそれやられると、タマやトリムにバレる……って、タマにはもうバレてるかw


「そこにちょうどいい木陰があるから昼飯にしましょう」


 とりあえず誤魔化した。ランチタイムで一拍置いて、みんなの興奮を冷めさせないとな。




「ピロリンっ」




 俺が木陰を指差した瞬間、謎スマホから通知音が聞こえてきた。


「ん? 通知? なんだろ……」


 基本このスマホ的謎機械、通知が表示されることは稀なんだがなー。


 使い魔モードが開いたままの画面を見てみた。




 ――初期使い魔候補全員契約完了につき、第二次使い魔候補を表示します――




 なんじゃこりゃ。


 画面描き換えの砂時計アイコンが出て十秒くらい経つと、元の使い魔選定モードに戻ったぞ。使い魔選定画面を久しぶりに開いたから、これまで溜まってた更新情報が上書き反映されたんだな、多分。


「なんだこれ。使い魔が追加されてるじゃん」

「本当? 平くん」

「ええ吉野さん。ぱっと見、三体増えてます」

「凄いじゃないの」


 使い魔候補として、おなじみのドラゴンロード/ハイエルフ/サキュバスが並んでる。その下に、なんやら知らんが「第二次使い魔候補」とかいう見出しが立って、モンスターというか新たな使い魔候補が、三体並んでるじゃん。


「ご主人様。ボクにも見せてよ」

「あたしもあたしも」


 集まってきたパーティーが、俺の横から画面を覗き込んできた。


「どんな使い魔なんだろうな」


 こいつは楽しみだ。さっそく見てみるか。どれどれ……。


 謎スマホ画面に、俺は目を落とした。




――第二次使い魔候補――


グレーターデーモン

サタン

モバイルデバイス




「はあーっ!?」


 マジなんだよこれ。なんで不吉な名前が並んでんだよwww


 グレーターデーモンって、「超強い悪鬼」ってことだろ。悪鬼デーモンの上位種。ウィザードリィとかのゲームに出てくる、超絶強力な凶悪モンスターじゃん。それともデーモンの暮田くれたさんかよw


 サタンは言うまでもない。悪鬼や悪魔どころか、「魔王」だろこれ。悪のモンスターの総元締め。一番ヤバい奴じゃん。


 なんで揃いも揃って「どえらく凶悪」系な悪のモンスターばっか、今度は使い魔候補になってるんだよ。こんなん召喚したら、俺、瞬時に惨殺されるだろ今度こそ。


 ほんでさあ、最大の問題は最後の奴だわ。


 なんだよモバイルデバイスって。携帯機器って、要するにこのスマホ的謎機械のことだろ。なんでお前が使い魔としてモンスター化するんだよw わけわからんだろ。


「……」<俺

「……」<吉野さん

「……」<レナ

「……」<タマ

「……」<トリム




「…………………………」<長い沈黙www




「……まああれだ、スマホの調子悪いみたいだし、見なかったことにしよう」


 強制的に、謎スマホをスリープモードにした。みんななにも言わない。


「あれだなー。明日開発部の奴にクレーム入れんとならんなーこれは」


 俺のかすれ声は、異世界の心地よい暖かな風の中、青空に虚しく吸い込まれていったよ。


 俺の異世界サボり旅、これからどうなるんだろwww






(第二部 「王都の謎」編 完結)



■第二部、ご愛読ありがとうございました。


平いいぞ。寿命なんか取り返してやれ!

トリムにレナ、タマ、使い魔かわいい!

吉野さんみたいな優しいヒロインが好き!


――などと感じていただけたら、フォローや星での評価など、応援よろしくです。

特に只今コンテスト出品中につき、星での評価はたいへん助かります。超感謝です。


トップページ(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891273982)から★★★を入れれば評価完了! レビューなしでも★だけ入れられるので、面倒はないですよー。



●次話は、第二部をこれまで応援いただいた感謝の、ボーナスエピソード「タマとデート」。さらに第三部「失われた三支族」編も、順次公開中です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る