8 新しい朝と招かれざる客

8-1 サキュバス効果ってあるんだな

「……朝か」


 意識が戻った。


 目を開けると、天井が見えた。俺の安アパートの合板木目天井じゃない。白いクロス張りの広くて高い天井が。


 まあ吉野さんのマンションだからな。


「夢みたいだったな」


 声に出さずに呟く。そう。本当に夢のような一夜だった。俺童貞だったのに、一気に経験人数ふたりになったからな。夢中であれこれしたが、興奮しすぎててあんまり覚えてない。


 もったいなかったな。細かく覚えてたら、今後一生妄想のネタになったのに。


「う……ん」


 俺の左側から、吉野さんの寝息が聞こえた。素っ裸で腕枕。俺の胸に手を置いて、気持ちよさそうに寝ている。しっとりきめ細かな肌は、まだなんとなく火照ってる気がする。隠れ巨乳は今ははっきり見えていて、呼吸に連れて動くから、先が当たっているあたりが妙にくすぐったい。


「ご主人……様」


 レナは右側。まだ百四十センチのままだ。エッチな行為をするときは等身大になるって言ってたから、朝起きて日常に戻れば元のちっこいレナに戻るんだな、きっと。


 なにか夢でも見てると思うわ。浅黒い肌で俺にぴったりくっついたまま、よく聞き取れない寝言を繰り返してる。さすがサキュバスというか俺の謎棒を握ったまま寝てるし、多分エッチな夢だろうw


「それにしても、サキュバスって奴には驚かされるな……」


 最近妄想タイムでなんとなく実感はしてたんだが、俺、とてつもなく絶倫になってた。多分これ、レナと使い魔契約したせいだ。契約してもう半年とかだし、その間どんどん精力が増強されたというか。昨日も何回出したか覚えてない。


 といっても、吉野さんとしたのは一回だけだ。中に入ったら苦しそうにしてたし。目に涙も浮かんでた。痛がってるのに何度もするのはかわいそうだろ。やっぱりというか、吉野さんも俺同様、初めてだったんだな。こんないい女が今まで手つかずとか、奇跡としか思えないわ。ウチの会社の男ども、見る目ないがな。


 レナは……凄かった。なんせ俺のこと放してくれなかったからな。かわいらしく抱き着いたまま、何度もおねだりしてきて。やっぱサキュバスだわ。最初は吉野さん同様、痛がってたけど、一度する間にどんどん開発されてく感じで、初めてというのに最後までいっちゃってたからな。


 横の吉野さんに見られるのなんか恥ずかしかったけど、終わったばかりで汗だくの荒い息だったし、ぼんやりしてた。部屋も明かり消してたし、多分俺とレナのこと、そんなに真剣に見てなかったと思うから、まあいいか。


 ふと、吉野さんの手が動いた。俺の胸に指を立て、ふざけるように円を描いている。


「起きた……? 平くん」


 囁くような声だ。


「はい……」

「ふふっ」


 まだ手を動かしてる。


「かわいい」

「そうですか」

「うん。私のご主人様は、年下のかわいい部下」


 半身を起こすと、形のいい胸が揺れた。


「それに私の大事な人」


 キスしてきた。乱れた長髪がふぁさっと俺にかかると、いい香りがした。俺の上司の。吉野さんの。そして俺の彼女の。


 思わずぎゅっと抱き締めると、微かに吐息が漏れた。


「だめよ。おいたしちゃ」

「吉野さん……」


 我慢できずに、強くキスした。唇をそっと緩めると、吉野さんは俺のしたいようにさせてくれた。ああ言ってたが、吉野さんのほうが、よっぽどかわいい上司だ。


「わあ、ご主人様。朝から絶好調だね」


 レナの元気な声がした。


「えへへ。また大きくしてるし」


 ぎゅっと握ってきやがる。これだからサキュバスは。


「出社時間までけっこうあるよね」


 起き直ると、脇をくすぐってくる。


「ならご主人様はまたボクのものだよ。まだエッチタイム残ってるし」


 うれしそうに俺の上に乗ってくる。


「おいおい」


 もう朝だ。分厚い遮光カーテンが掛かっているとはいえ、隙間から陽の光が漏れているから、俺も吉野さんも、もちろんレナの裸もぼんやりとは見えている。それなのに吉野さんの目の前でまたするってのか、お前。


「私は平気よ。平くん」


 俺の気持ちを察したかのように、吉野さんが呟いた。


「それにサキュバスのエッチって、ちょっと見てみたいし。……今後平くんとのとき、しっかり応えるためにも。……私、そっち方面奥手だから」

「吉野さん俺、もう一生ものの大感激でした。絶対忘れません昨日のこと」

「ふふっ」


 それにしても、エッチな勉強するってんですか、吉野さん。おとなしくてしとやかなのに、意外に積極的っすね。


「えへへーっ」


 てかレナ。お前うれしそうに俺のいじるのやめろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る