2-5 ハイエルフ召喚

「本当にハイエルフを召喚するってのか、平」

「ああ。アーサーお前だって、今後のルーティングはとっても重要だって、さっき会議で言ってたじゃないか」

「まあそうだが……。昨日バジリスクであれだけ苦労したのに、次はハイエルフとか……」


 アーサーは俺をじろじろ眺め渡した。


「お前、本当にハイエルフなんか使役できるのか? あいつら森林の王者だぞ。木々の間で戦うから弓矢攻撃が中心だが、短剣の剣術も凄い。狭い空間で敵が長剣をうまく使えない間に、ざくざく斬り込んでくるからな。……それに自分の命を犠牲にした、とんでもない魔法も使えるって噂だ」


 うむ。半信半疑だなアーサーw まあ当然とは言えるが。俺だって成功するかはわからん。でも俺は左遷の落ちこぼれ社員だ。失敗が当然なんだから気になんてしないさ。なんにつけ失敗したら、次はもっとうまくなってリベンジすればいいだけじゃん。


「アーサー、平のパーティーは、グリーンドラゴンとも友誼ゆうぎを通じている。お前だって知っているはずだ」

「たしかにミフネの言う通りではあるが……」


 アーサーはまだ半信半疑のようだ。あーちなみにドラゴンロードとの因縁は、誰にも話してない。食われそうになったとか、ただの恥だし。


「安心して。ご主人様は落ちこぼれだけど、口だけは達者だから。だからきっとハイエルフをうまく言いくるめるよ」

「そりゃいい」


 レナお前、それフォローになってないぞ。スカウト連中は大笑いだし、吉野さんすら下向いてこらえ笑いしてるじゃんか。


「なんだか楽しみになってきた。許す。召喚してみろ。朝食後の娯楽タイムだ」


 アーサーはにやにやしている。まあいい。やってみようじゃんか。


「さて……」


 例によってレナを胸に収めた俺がスマホを取り出すと、みんなの視線が集まった。アイコンをタッチして、使い魔選定モードにする。


 使い魔候補が出る。




ドラゴンロード(召喚保留中)

ハイエルフ

サキュバス(契約済み)




 なんだよドラゴンロード召喚保留中かよ。ケチ。嘘でいいから「契約済み」って出せよ。くそダサいスマホの分際で。


 俺は画面のドラゴンロードの部分をこすった。




 ――できません。無理してこすらないで下さい。痛いから――




 なんだこのスマホ。冷たいわー毎度だが。それにシリだかアレクサだかみたいなキモい人格入れやがって。開発者どつき回すぞ、ほんとに。


「まあいいか」


 一応またハイエルフの説明文を読んでみた。


 ――地形や自然を読むのが得意。エルフの上位種族ハイエルフだけに、戦闘能力もかなり高い。ただし気位が高く、他人に使役されるのを嫌う。召喚主のレベルが足りないと馬鹿にされて小間使い扱いされる。あんたには無理無理――


 えーとw


 前読んだときは「無理無理」まではなかったはずだけど……。なんだこのスマホ(的謎機械)、もしかしてAI機能搭載で使い手のことを学習してくのか? てか学習でなく煽られてる気もするが。


「お前なんか充電せずに放置してやる。あとで吠え面かくなよ」

「ご主人様、スマホ相手にマウント合戦はかっこ悪いよ」

「あーもう、わかってるって」


 レナにたしなめられて、少し冷静になった。見回すと、アーサーやスカウト組は興味津津といった表情。ミフネはじめ近衛兵組は、なにかあったときの用心だろうが、剣の柄に手をかけたまま、油断なくこちらを伺っている。吉野さんははらはらしてる。タマは――いつもどおり、パーティーの周囲に注意を向けてるな。


「まあいつもどおりってことか」


 ほっと息を吐くと、俺は力を抜いた。とにかくやってみるわ。俺の人生、その繰り返しだったし。


「はい召喚召喚っと」


 ハイエルフの文字列をタッチする。




 ――ハイエルフでいいですか はい/いいえ――





「はい……っと」




ちりりりりんっ




 鈴の音に似た可憐な召喚音と共に煙が立って、女が現れた。もう見るからにエルフーっていう見た目の金髪。線の細い感じの美人で、あんまり体の線とかが出ないローブのような、白銀に輝く服を着ている。なんやら呪文のような模様が入っるな。


 目をつぶったままうつむき加減で黙っている。弓を持ち矢筒を背負い、腰には短刀も提げている。


 煙が消えると、顔を上げ、瞳を開けた。緑の瞳が俺を捉えると、驚いたような形に口が開いた。


「よう。ハイエルフさん」

「そ……」


 ハイエルフが声を出した。


其処許そこもとが召喚主かえ」

「そこもと?」


 時代劇かよ。いくら伝統を重んじる高貴な種族ったって、限度があるだろうに。


「あっ失敗した」


 なんか小声で言ってるし。


「ごほん。えーとあの。あたし、やっぱ間違った?」


 誰もなにも言わない。


「あっいや……。あ、あんたが召喚主よね」

「なんだ普通の話し方できるのか」


 これからずっと、時代劇口調に合わせないとならないかと心配したぜ。


「当然でしょ。底辺と話すときは、低レベルに合わせないと」

「はあ?」


 なんだよこいつ、ハイエルフだかなんだか知らんが生意気だな。


「まあいいや。召喚の要請で現れたハイエルフだな」

「そうだけど。なに?」


 素知らぬ顔で、あたりを見回している。


「ヒューマンが十人くらいにケットシーかあ。低層パーティーじゃない、やっぱり」

「ボクだってここにいるよっ」


 シャツから顔を出したレナが叫んだ。


「あーほんと。ちっこいから見えなかったわ。えーと……コロボックルかなんか?」

「サキュバスだよ」

「嘘っ。全然色っぽくないし」

「色っぽいもん」


 いやそこだけは俺もハイエルフに同意するわ。


「ご主人様、この子駄目だよ。もう戻そうよ」

「そう言うな、レナ。――なあハイエルフさんよ」

「なに」

「召喚したのは俺だ。使い魔としてよろしく頼むな」

「あんたが使い魔になるのね。ならいいわ」

「逆だろ」

「ちっ、知ってるのか」


 ――気取った話し方で騙せるかと思ってたのに――とか小声で愚痴ってるが、全部丸聞こえだしw


「ふん」


 俺のことをじろじろ眺め回してやがる。


「うーん」

「なに考えてるんだよ」

「あんたレベル低いし」


 やっぱりこのパターンかw 脳裏に、ドラゴンロードに丸呑みにされた前回の召喚が蘇った。


「レベルの低い召喚主に、ハイエルフが仕えるわけないでしょ」


 くそっ。やっぱこうなったか。いったいどうすれば……。

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