6-4 村長、薬草弁当でアガる
ほうほうの態で村に戻ると、街道沿いにもう食堂の形がぼんやりできてて驚いた。職人が大勢取り付いていて、基礎を石で固めて柱を立て、梁や壁を作り始めている。
すげえ。
あっけにとられた俺達パーティーを見つけて、タマゴ亭さんが手を振った。
「お仕事うまく行った?」
「ま、まあね」
適当にごまかす。巨大モンスターに殺されそうになったとか正直に話すと、明日から逃げられちゃいそうだし。
「そっちははかどったみたいで、なにより」
「えへへ。なんか手伝いの人がいつの間にか増えちゃって」
なんだ、タマゴ亭さんの人柄かな。
「とにかくこっちは昼にするんで。弁当一緒にどうすか」
「もう少しで一段落するから。その後で職人さんたちとみんなで食べるわ」
「うおーっ!」
居並ぶ職人どもから大歓声が上がった。
「夢にまで見た弁当がっ」
「あの唐揚げとかいう神秘の飯がっ」
「お、俺はかき揚げがもう辛抱たまらん」
異世界人、どんだけ弁当好きなんだよ。こりゃ村長の目論見どおり、きっと大評判になるな。
タマゴ亭額田さんの話では、どうやら弁当目当てで、本来の自分の仕事そっちのけで工事に参加した奴が多いとか。そりゃ異様に進捗もするわ。
●
「レナ、ドラゴンの話をもう少し聞かせろ」
弁当を広げながら、俺達は今日のイレギュラーな戦闘を振り返っていた。
「さっきも言ったとおり、出やしないよ。ご主人様」
「いいからさ。念のためだ」
「私も知りたい。だってもし遭遇するなら、それなりの準備をしとかないとね」
溜め込んでいた火炎弾があらかたなくなってしまったせいか、吉野さんは少し焦っているようだ。
「ボスの言う通りだ。今日はぎりぎりで排除できただけ。幸運だった」
いつもはクールなタマも、表情が曇りがちだ。
「じゃあ話すけど」
おかずの肉団子炒めを摘む手を、レナは止めた。真面目な表情になる。
「ドラゴンが棲むのは、険しい山奥の洞窟とか、砂漠の真ん中の巨大地割れの中とかだよ。こんなきれいな草原にいるはずはない。それにそもそも、ドラゴンは稀少種だから、各種のバリエーション含んでも、この世界にせいぜい数体ってとこじゃないかな」
言葉を止めると、お茶をひとくち飲んだ。
「だから安心していいと思うよ」
「サンドワームだって、本来、出ないはずのところに出現した。ドラゴンだってどうだか、わかったもんじゃない」
「ねえタマちゃん。もしドラゴンが出たら、どう戦えばいい」
「逃げるんだな、ボス。それしかない」
「そう。ご主人様の潜在能力ならドラゴンとも勝負できるはずだけど、今のレベルだと勝てっこないよ」
「全力逃走ってことか」
「それしかないな。ボスのボス」
俺は想像してみた。全長五十メートルもあるドラゴンが出現し、必死で逃げる俺達の姿を。でもドラゴンって空飛べるって言うし、秒速で追いつかれてブレス攻撃とか喰らいそう。
「タマ、そりゃそうかもしれないけどさ。逃げられるのか、俺達」
「無理だろう」
死ぬじゃんw
「わかった。俺達パーティーは、あの怪しい方角には進まないことにしよう」
「そうよね、平くん。地図さえできればいいんだから、特に危険地帯を冒険する必要なんてないし」
「なにか事を構える必要が出たとしても、俺達がもっと強くなってから考えるしかないな」
「じゃあ平くん。そろそろ王都に向かうのはどう?」
「そうですね、吉野さん。食堂が完成して村人の店舗経営が軌道に乗ったら、王都に向かいましょう。それまでは『食堂建設が今期の目標』くらいに社長に言っといて、地図作りはお休みにします。この村でまったりしましょう」
「泥炭採掘の警護もあるし。それなりにやることはあるものね」
「それに、ちょっと調べたいことがあるんで」
「なんだボスのボス。マタタビのありかか」
タマw ここでボケるか、こいつ。
「わかったよボク。この村の秘密でしょ」
「よくわかったな、レナ。お前やっぱり頭いいな」
「てへっ。ご主人様にほめられちゃった」
体をくねくねして喜んでるな。かわいい奴だ。
「どうせしばらくこの村から離れられない。ならその秘密っての、知っておくべきだと思うんだ。なんかまた危険な秘密だったら、俺達サボれなくなるじゃん」
「村の地下の太古の墓場から、大量にアンデッドが湧き出るとかね」
「百年に一度、湖から巨大モンスターが出現して村を襲うとか」
「満月の夜、村人が全員狼となって近隣の村を荒らしまくるとかな。全員変身するから、最中のことは誰も覚えていないんだな」
「お前ら……」
揃いも揃って不吉な説並べ立てやがって。
「それ、ドラゴンとの契約のことだって」
「へ?」
俺の脇にタマゴ亭さんが立っていた。いつの間に……。くのいちか、この人。
「朝から村長さんが手伝ってくれたんだけど」
座ると話し始めた。
あのおっさんも弁当目当てかよ。笑うわ。こんなん。
「作業しながら、村の歴史をいろいろ話してくれて」
「はあ」
「お弁当の時間になったら、なんだかさらに調子が上がっちゃって」
そりゃアッパー系弁当だもんな。薬草入ってるから疲れや傷を癒やしてテンションも上げるという。
「それで私の耳元に、こっそり村の秘密を話してくれて」
おっさんwww
「なんでも、王家は辺境のドラゴンと契約し、代々、王家と王領を守護してもらってたんだって」
おっ。村どころか王家が絡んでたのか。こりゃデカい話になりそうだ。俺は息を呑んだ。
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