底辺社員の「異世界左遷」逆転戦記 ――異世界でレベルアップしたら現実でも成り上がった
猫目少将
第一部 「異世界左遷(させん)で自由満喫」編
1 使い魔はサキュバス
1-1 使い魔候補は三体。誰を選ぶ?
「さて仕事を始めるか。まずは使い魔を選ぶんだったな」
スマホ的な謎機械を起動。地図モードだの測定モードだのいろいろメニューが並ぶ中から、「使い魔選定」を選ぶ。
メニューに従ってアイコンを二、三度タッチするだけで、使い魔候補が表示されたよ。なんだ簡単だな。これ作った奴が探検すればいいのに。
さてさて、俺の使い魔候補はと……。
ドラゴンロード
ハイエルフ
サキュバス
「おう。なんだよ思ったよりいいじゃんか。これからの旅に期待できるな」
ところで俺がここ異世界の草原に、たったひとりビジネススーツにネクタイの姿で突っ立ってるのには、わけがある。十五分前に話を戻すが――
●
「
思わず口に出た。ここは異世界。異世界通路の出現現場に作った、急ごしらえの転送装置から送り込まれた先ってわけさ。もちろん俺にとって初めての世界だ。
俺以外、周囲には誰もいない。
なんか草原みたいな丘が続いてて、はるか先に山だの湖だのが見えている。見える範囲では、村だのモンスターだのはない。
「スーツにネクタイなんか、必要なかったな」
暑からず寒からずのいい陽気だが、場違いなスーツにネクタイ姿の自分がアホに見える。明日からはアウトドア装備にしとくわ。
いや俺、趣味は妄想。妄想にすべての時間を突っ込みたいから入社以来、有給休暇を全部消化してたし、残業も基本断ってた。結果、いろんな部署をたらい回しにされたあげく、とうとう「異世界開拓」業務の謎子会社に左遷されたよお母ちゃんw
まだ二十五歳だってのに、扱いひどすぎで笑うわ。働き方改革の時代に、俺の会社、ずれてるだろ。
「まあ愚痴ってても仕方ないけどなー。誰もいないから、サボって妄想にふけってても怒られないしな。くそダサい仕事よりはマシか」
気を取り直した。
日本のど真ん中に異世界に通じる空間が生じたのが、そもそもの発端さ。政府による調査で、どうやら役立ちそうな鉱物資源(やらモンスター)が存在するとわかった。そこで地図を作りたい。ところがもちろん大危険。
よせばいいのに、ウチの社長が新規事業として、地図作製を請け負ったってことよ。政府の補助金目当ての受注で、失敗は見えてる。だから社内の厄介者だけ最小限の人数放り込んで、新規子会社を作った。要は「形だけ整えた」って奴。こんなん笑うわ。
当然、やる気なんか起こるわけない。これまでどおり給料分だけ働いて、定時で帰って妄想するだけさ。成績悪くても、クビにはならないからな。怒られるだけだし。出世さえあきらめれば、気楽なもんだ。てかそもそも俺、責任重大で忙しくなる出世なんか、したくないからさ。
なんでもいいように考えるし、嫌な奴は「言葉のわかる猿」くらいに考えて相手する。これが俺の得意なところ。こうじゃないと大事なメンタルやられるからさ。
「さて十時だし、初日の業務を始めるか。まずは使い魔を選ぶんだったよな」
俺の仕事は、モンスター退治でも鉱物探索でもなんでもなくて、ただただこの世界を歩き回ること。そうすると、この見るからに安物スマホっぽい「社畜GPS」だか「社畜スマホ」だかに、歩いた部分の地図が描き込まれていく。それだけ。
ところで、このスマホっぽい奴を持たせてくれた開発部の社員が、俺に言ったよ。異世界に入ったら、最初は一歩も動くなってな。ゲームみたいなもんで、この世界では移動するとランダムにモンスターが湧いたりするらしい。
歩かなければ、絶対に敵は出てこない。いや俺、仕事で殺されるのはごめんだからさ、素直にアドバイスに従うわ。
まずは、このスマホっぽい奴で(面倒だからもうスマホって呼べばいいか)、使い魔ってのを選ぶらしい。そいつに助けてもらいながら、徐々に地図を作れってことさ。
なんでもガチャみたいな感じで、使い手(つまり俺)の能力や適性に合った使い魔候補が三人だか三体だか表示される。そこからいくつでも選んでいいって話さ。全員でもいいってよ。
でまあ、さっそくスマホを起動。地図モードだの測定モードだのいろいろメニューが並ぶ中から、「使い魔選定」を選ぶ。
メニューに従ってアイコンを二、三度タッチするだけで、使い魔候補が表示されたよ。なんだ簡単だな。これ作ったの、社内の天才科学者とかいう話だが、そいつが探検すればいいのに。
さてさて、俺の使い魔候補はと……。
ドラゴンロード
ハイエルフ
サキュバス
おいおい。どれもこれも、そこそこ魅力的じゃん。なんだかゲームやファンタジーで見たような名前が並ぶのは、この異世界自体、どうやら積もり積もった人類の妄想から発生したからだと。俺も妄想は得意だし、まあ相性は悪くないかもな。
使い魔候補にちょっと喜んで、下にずらずら並んでる説明を読んだわけさ。したらこれが大笑い。
まずは異世界探索に一番役立ちそうなドラゴンロードな。
なんでもこいつは、ゲームで言えばレベルカンストした最強モンスターみたいな奴らしい。ただし――そう、ただしだよ、「最強だけに、自分より弱い使い手には従わず、食い殺すこともある」だと。
異世界に一歩踏み出しただけの(てか歩いてもいない)俺がこんな奴召喚したら、秒速で食われてゲームオーバーだろ。
がっかりして、ハイエルフって奴の説明を読んだ。
こいつは、地形や自然を読むのが得意らしい。歩き回って地図作る相棒にはふさわしそうだ。しかもエルフの上位種族ハイエルフだけに、戦闘能力もかなり高いとか。ただし(またかよ)、気位が高く、他人に使役されるのを嫌うんだと。だから使い魔のくせに召喚主を小間使い扱いだとよ。
うーん……。上司の指示に逆らいまくってきた俺との相性最悪。こいつも無理っぽいな。次だ次。
サキュバスね。戦闘で役立つとはとても思えないけど、ある意味、興味最強のモンスターというか。癒やし担当になってもらってもいい気はする。できれば他に強い使い魔が欲しいところだが。
したらこいつもかよ。ゲーム的に言えば「レベルゼロ」だとよ。「そのためサキュバスとしての能力はまったくない」とか、つるっと書いてんじゃないよ。そんな奴候補に入れてどうする。せめてレベル一にしとけよ。ゼロってなんだよ。そんなんゲームですら見たことないぞ。
「なんだこれ、全部ハズレじゃんか。ガチャ引き直すとかリセマラとかできないのかよ」
スマホをあれこれいじってみる。
――できません――
この冷たい表示。むかつくわー。
はあそうすか。選ばなきゃならないってんだから、唯一、使い魔っぽく使役できそうなサキュバスしかないな。
探索しててヤバいモンスターが出てきたら、逃げ帰ればいいや。営業成績ゼロだって、殺されやしないだろ。ゼロが続いて居づらくなったら最悪、会社辞めちゃえばいいんだし。
出向にあたって「係長級」の役職をもらったから、職能手当は出る。それに連日日帰りなんだけど異世界は特別ってことで、見なし出張手当と危険手当もある。半年くらい我慢すれば、辞めたって次の職が見つかるまで餓死はしないだろうしさ。失業手当だって出るから、ぶらぶらして妄想し放題だな。
「はい召喚召喚っと」
お気楽に召喚アイコンをタッチする。
――サキュバスでいいですか はい/いいえ――
うるさいな。他に選べる選択肢ないくせに。煽ってんのか、このスマホ。
「はい」っと。
ぼわーん
今どきないくらい間抜けな効果音と共に煙が立って、女が現れた。
サキュバスらしく、露出度の高いちょいエロ衣装。顔もかわいいな。スタイルはいいけど胸が大きすぎはしないので、見たとこ、高校生くらいに思える。顔立ちとかは、ちょっとエキゾチックな感じさ。
でもなんだよこいつ。身長が四十センチくらいしかないじゃんか。そいつがふわふわと、器用に宙に浮いている。こりゃ癒やし方面にも戦闘方面にも、まったく役に立たないだろ。
「はじめましてご主人様。……ご主人様でいいんだよね」
おろおろしてる。あきれかえった俺が黙っているので、不安になったみたいだ。
「えーともしかして、使い魔のサキュバスか」
「そうだよ」
安心したように笑った。声もかわいいな。四十センチとかだけど。
この使い魔と一緒に俺、ここ異世界でどう動いていこうかな。
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