中学生編(7) 日常と非日常の狭間で

 流石は『食い倒れの街』といったところか。京都へ向かう貸し切りバスの車内には、お腹に手を当てうんうんと唸る生徒が四方八方転がっている。

 朝食バイキングの後に、昼食として道頓堀で食べ歩き。そんな行程は無茶だろうと思っていたが、中学生の食欲は何枚も上手であった。

 旅の興奮に身を任せ、お小遣いの許す限り次々と買っていった生徒たち。それだけにとどまらず、大半の生徒は車内で食べる用にたこ焼きまで持ち帰ってしまったのであった。

「死屍累々」という四字熟語が、アキトの頭をよぎる。そう思うアキトも、手元にはたこ焼きを持て余していた。車内に漂うソースの香りに、眉間に皺を寄せる。


 車の速度が遅くなる。普段なら苛立たしい道路混雑も、古都の街並みを眺めるには好都合であった。

 予定からの遅れもなく、バスは京都御苑の駐車場に停車する。アキトはバスのステップを降りると、大きく深呼吸した。パキリ、と伸ばした関節が鳴る。

 担任に従い、少し開けた場所に移動して、この先の自由行動の注意を受ける。

「これから、自由行動となる。くれぐれも羽目を外し過ぎないようにし、品位を落とすような真似はしないこと。いいな?」

 はい、と一丸となって返事をする。

「よし。じゃあ集合はまたこの場所に六時だから。決して遅刻しないように。……では、楽しんでこい」

 先生の声を合図に、班ごとに散らばっていく。思い思いのメンバーで、思い思いの場所を巡り、思い思いの修学旅行の記憶を作るのだろう。

 アキトたち五人は、まず二条城へ向かった。鶯張りの廊下を鳴かせながら、日本史の転換点となった舞台を味わう。この地で、時の為政者たちは重大な決断を下してきたのである。

 その決断力が羨ましい。アキトはグッと拳を握る。分かっている。修学旅行中だと、この自由行動が唯一のチャンスであると。堂々と輝く絵画の前で、アキトは小さな小さな、けれど中学生にはとても大きな決心を胸にした。


 続いて少しだけ地下鉄に乗り、下鴨神社へと向かう。地上にあまり鉄道用の用地を確保できない土地柄、比較的地下鉄が発達している方の街なのであった。

 地下鉄を降り、班でのんびりと、古い街並みを歩く。

 景観を損なわないよう、店の看板や信号機は焦げ茶色に塗装され、治安維持のため空を舞うドローンも暗い茶色に身を包んでいる。一千と数百年もの歴史を誇る条坊と、最先端の無人ドローンの共存は、よくよく考えると不思議なものに感じられた。

 木々の深い緑に、朱色の鳥居が映える。独特の色彩で飾られた木造建築の数々は、神秘的と言うほかなかった。となりでミノルは、シャッターを切ることに勤しんでいる。

 賽銭箱に五円玉を投げ入れると、金属と金属のぶつかりあう音がした。二回お辞儀をした後、手を二回打ち鳴らす。「この修学旅行が、何事も無く終わりますように」特に願いたいことがあるわけでもないアキトは、それだけ心の中で願って再度一礼した。

 参拝を終え、参道を歩くとミホが声をかけた。

「ねえ、あっちの方行ってみない?」

 そう指さす先には、相生社があった。

『縁結びの社』手元の地図にはそう記してある。

「いや別にいいよ、縁結びなんて」

 とはいうものの、下鴨神社といえばこの縁結びである。この縁結びの御利益目当てで来る人も多く、実際相生社の方には人だかりができていた。

「まあ、いいじゃん。せっかくだからさ」

 そうツネオミに引っ張られ、相生社へと歩く。受付でお金を払い、絵馬を受け取ると、各々筆を持って絵馬と向かいあっていた。

「アキトは何て書いてるの?」

「なんだっていいだろ。それにそもそも『縁』って言うのは男女の縁だけじゃなくて、もっと幅広い、『つながり』を指す言葉なんだ。だから……」

「だから?」

 この五人が集まったのも、何らかの縁である。これ以上新たな縁を求めるのは、欲張りというものなのではないか。

「だから……まあ、いろいろ囚われずに幅広く願い事を考えた方がいいってこと」

 そう言いながらアキトは「ミフユと一緒にいられますように」と書いて、慌てて上から目隠しシールを貼り付ける。我ながら直球過ぎるし我が儘だな、とアキトは苦笑しつつも、願い事を反芻し、ぎゅっと紐を固く結んだ。

 男は時計回り、女は反時計回りで社周辺を回り、絵馬を掛け、お参りして最後に綱を二回引くのがここの習わしらしい。

 アキトたちも男女に分かれ、別々の向きで歩き始めた。ご神木を見ると、確かに二本の木が途中から一本に結ばれていた。二本が運命共同体となる。このような不思議で強い結びつきを見れば、なるほど縁結びを祈る気持ちも理解できた。

 何度もすれ違っては再会し、願いを掛ける。また再開して、願いを込めながら手を鳴らし一礼する。最後の綱は、両側に分かれ五人で一緒に引くことにした。

 ……祈るだけではだめだ、自分から動かねば。綱を引き終えると、アキトはそう心の中で自身を律した。


 五人は集合場所である京都御苑へと向かう。まだ時間に余裕はあるので、公園内を少し散策することにした。

 大きな通りは、不思議とおおらかな気持ちにさせる。高々と育った木からは、小鳥が飛び立っていった。

 草木や鳥、虫までもが興味をそそる。各々歩きながらもふらふらと、好奇心の赴くままに見て回っていた。

 何気なく通った門ですら、重要な歴史的建造物であるのだから、京都は恐ろしい。門のそばに立てられた説明書きを読みながらアキトは唸る。

 自然が多く、動植物保護の観点からあまりドローンを飛ばせないからか、ところどころ監視カメラのついたポールが立っている。そのまま道に沿って視線を走らせると、白い看板が目についた。


「関係者以外の立ち入りを禁ず。

           宮内庁 」



 脳内で読み上げたその文字列を理解した瞬間、ハッと世界が一瞬凍る。忘れられない嫌な思い出が、瞬く間に頭の中で展開される。公園、看板、立ち入り禁止。みんなは。ミフユは。

 ぐるぐるとものすごい勢いで空回りする思考を抑えつつ、その瞳がミホの姿を捉える。

「あっ、アキト。何かあるの?」

 アキトの視線に気づき、ミホは柔らかな笑みを浮かべる。対してアキトは粗雑な動きで駆け寄った。

「ミホ!みんなは?」

 突然の大声にミホは戸惑うも、柔らかな表情は崩さなかった。

「え?いや……」

「ミフユたちは?どこにいる!?」

「しッ知らないよ!どっか見に行ってるんじゃないの!?」

 そう言って、ミホは軽く唇を噛む。必死に畳み掛けるアキトに少し苛立ってしまった自分がいたことに、ミホは気づいた。

 その間にもアキトは一人、考え事をしているようであった。その口が、小さく動いている。

「だ、大丈夫よ、みんなは」

 先ほどの態度への謝罪も込めて、ミホはそう優しく伝える。しかしその言葉がアキトの思考に影響することは、なかった。

 やがてアキトは公園内の地図に目を走らせると、何かを思いついたように顔を上げた。

「……じゃ、俺はみんなを探してくるから」

 そう言ってアキトは駆けていく。

 いけない。せっかく二人きりにしてもらったのに。

 気がつくとミホは、その腕に手を伸ばしていた。

「大丈夫だって、言ってるじゃん!」

 ミホの手が、アキトの腕を掴む。

 じわりじわりと、ミホの手が触れている部分からアキトの腕に熱が流れ込む。その熱が、感触が、知覚される頃には、アキトの思考は落ち着きを取り戻していた。

「だ、大丈夫って……?」

 アキトの身体を引っ張る者の方へ足を向ける。

「そ、そりゃ、向こうにはツネオミもいるし……」

 ミホは申し訳なさそうに俯く。

「でも一緒にいるとは……」

「ううん、一緒にいる。うん……だって誰か一人になるようなことはしないよ。もしミフユが迷子になってたら、ツネオミだって連絡するはずだし。だから、大丈夫。迷子にはならないし、絶対遅刻することもないよ」

 心配の内容が違っていたとは、ミホは知る由もない。それでもミホは、アキトを安心させようと必死だった。

「だからさ……私も一人にしないでよ。こっちも、もうちょっと見て回ろ?」

 腕を握る手の力が強くなったことを、アキトは感じ取る。

「ミフユの元に駆けつけねば」それ以外も考えられる頭の余裕を、アキトは取り戻していた。「この場を放っておくべきでない」そう考えられるだけの落ち着きを、アキトは取り戻していた。

 だけど、だからこそ。

 したいこと。しなくてはいけないこと。してはいけないこと。一つ一つ、冷静に吟味していく。

 こんなのは出来レースだ。アキトは苦々しさを覚える。結論は決まっている。ゴールは揺るがない。あとはそれにどう道を引くか、どう理由付けをするか、でしかない。

 胸の中にある冷たい残酷な結論を、精一杯柔らかい綿に包んで。

「……うん。見て回りつつ、みんなを探して合流しよう」

 アキトはもう、ミホの顔を直視することはできなかった。



 修学旅行生が多いからだろうか、京都駅にはやたらと開けたスペースが多い。ガラス張りの窓から射し込む光が、ぽっかりとあいた空間を際立たせていた。

 修学旅行の最終日。今日は金閣寺、銀閣寺、清水寺といった有名どころをクラス毎バスで回り、京都駅へたどり着いたところである。

 出発列車の案内の電光掲示板を見つめ、アキトは小さくため息をつく。今日はクラス単位での行動だったこともあり、結局あれ以降もアキトはミフユともミホとも話せていなかった。

 何故ミフユに話しかけなかったのか。ミホにあんな態度をとってしまって良かったのか。当てもなく、お土産コーナーを彷徨いながら、自分の傲慢な弱さに、苛立ちを感じる。悔いのない修学旅行とは、とてもではないが言えなかった。

 家族のために八つ橋を手にしてレジへ向かう途中、小さな狐のグッズが並べられた一角を見つけた。アカネギツネちゃん、パッケージに記されたそのキャラクターの名前に、アキトは一つの記憶を思い出す。

 隅にある小さなストラップを手に取ると、八つ橋と共に、アキトはレジへと急いだ。


 先生の声を合図に、再集合させられる。行き先表示の「東京」の二文字が、旅行の終わりを痛感させた。

 ホームに並び、車内に乗り込む。リニアよりも広い車内では、男子が海側に三人横並びで座ることとなっていた。ミノルが窓側、アキトが通路側、その間に、ツネオミが座る。

 ホームドアが閉まり、電車が走り出す。行きの大阪の方が遠いのに、東京までにかかる時間が行きよりも長い、というのはどこか不思議な感じがする。

 車内は思い出話に花を咲かせる者、旅の疲れに眠りに落ちる者が大半だ。この広々と力を抜いて乗れるところが、リニアや飛行機に対しての新幹線の利点であろう。車内に響く走行音も、うるさいにはうるさいが飛行機に比べれば大分マシだろう。


「なあ、アキト。昨日はごめんな」

 高速でトンネルを抜ける車内で、ツネオミはアキトに話しかけた。

「ごめん、って何が」

「昨日、アキトたちと離れちゃったろ?」

「ああ」

「凄い心配してた、って聞いたから」

「…?そんな、大げさなもんじゃないけど」

「いや…、さ……」

 ためらいがちにあたりを見回すと、ツネオミは耳に口元を近づける。

「頼まれたんだ、ミホに。二人にしてくれって」

「……そうか」

「ごめん」

「別に、大丈夫だって。ツネオミは悪くない。みんな無事で何よりだし。……悪いのは、俺だ」

 最後の方を小さな声で呟く。聞こえてか聞こえなくてか、ツネオミは申し訳なさそうに表情を歪めた。

「本当に、ごめん」

「いいって」

 アキトはテーブルの上のお菓子を開けると、一つ口の中に入れる。

「ツネオミも食べていいぞ。もちろんミノルもな」

 東京までの二時間ちょっと。飲まず食わずだと、少しさみしい。


 座席に寄りかかり、アキトは目をつむる。

 昨日、あのとき、どうすれば良かったのか。そればかり考えてしまっている自分に気づく。

「……はぁーー」

 アキトは頭を振りながら深くため息をつくと、気晴らしのためにデッキへと歩いて行くことにした。

 人が長時間過ごすことを考慮した客室とは異なり、デッキは無機質で、トンネルに入るたびに轟音が鳴り響いた。

 トンネルの壁を背景に、窓ガラスに映る自分の顔を見つめて、アキトは改めて深く息を吐く。

 ドアに身体をもたれかけさせ、自由になった左手をポケットに突っ込む。カサリ、と硬い感触にポケットの中の物体を取り出すと、そこには先ほど衝動買いしたキツネのストラップがあった。

「そういえばこれ、何故か高かったんだよなあ」

 通常のこのサイズのストラップの倍、とまではいかないが、しかしそれに近い価格で会計時驚いたことを思い出す。

 苦笑しながら、裏面の商品説明をじっくりと読むと、そこには高い値段の理由が記されていた。

「背側のボタンを三秒長押しすると、二十秒以内のメッセージを録音できるよ!」

 袋を開けストラップを取り出し、キツネの背側を確認すると、確かにそこには小さなボタンがあった。

「メッセージ、ねぇ……」

 そんな機能のために、高くなっていたのか。ストラップが落ちないように左手でぎゅっと握ると、アキトは左腕をだらりと垂らした。

 わざわざ録音したいメッセージなどあるものだろうか。慌てて高いものも買ってしまうし、全く今回の修学旅行は散々なものだ……。

 その時ふと、アキトの脳内に一つのアイデアが灯る。

 再び左手を目の前まで持ち上げ、手のひらを開く。開いた左手の上で、小さなキツネは特徴的な目でアキトを見つめていた。

 全く下らない、常識的にありえない一つのアイデア。しかしそれでも、アキトはキツネの背を自分に向け、口元に近づける。

「ミフユ……」

 我ながら馬鹿馬鹿しい。一体何をやっているんだ。しかし一方で、もう一人の自分が告げる。お前は何をやってきたんだ?

 アキトは目をつむり、手探りで、キツネの背中にある小さなボタンを長押しする。

 一、二、三、四、五……。そうゆっくり心の中で数えてから、アキトは目を開いた。親指の下で、赤色のランプが点いては消える。

「はぁーあ」

 喉元まで出かかった言葉を押し込め、深く、溜息をついた。

 言おうとしたその言葉のあまりの恥ずかしさに、アキトは一人で顔を赤くする。

 スイッチを入れてしまっていたことを思い出し、変な物音が録音されてしまわないよう、アキトは再度、背面のボタンを長押しした。

「ミフユは、ナツキが好きで、俺は、ミフユが好きで。でも、俺にとってもナツキは大切な親友で……」

 自分に言い聞かせるように、アキトは独りごちる。トンネル内でも光る車内の照明が少し眩しい。

「だから、あの事を調べるミフユに全力で協力しよう。ミフユのためにも、ナツキのためにも」

 そう呟くと、アキトは再度小さく溜息をついた。時速二百五十キロの巨体が震わす空気が、ドアを介してアキトの身体を揺らした。



 一同は東京駅で在来線に乗り換え、学校へと向かう。

 見覚えのある電車が、馴染みの駅が、旅の終わりを痛感させた。

「家に帰るまでが修学旅行なので、寄り道せず無事に家に帰ること。そして親御さんに、お土産話を聞かせてやってあげましょう。では、解散」

 最後に校庭に集められ、学年主任の話をもって解散となった。

 さっきの話の何を聞いていたのか、「このままカラオケに行こうぜ」などと話している奴もいたが、アキトにはそんな元気は無かった。

 地面に置いた、服とお土産で詰まったカバンを持ち上げて、アキトは家へと歩みを進める。

「じゃあな、ミノル」

「バイバイ、ツネオミ」

 手を振って、友と別れる。一人一人別れていって、確実に家に、旅の終わりに、近づいていった。

 ふとそこで、この修学旅行を名残惜しむ自分に気づく。

 後悔もある。だからといってそれが、この修学旅行を全否定することにはならないはずだ。実際この修学旅行は、とても楽しいものであった。

 明日になれば、また日常に戻る。いつも通りになる。きっと。

 思考にふけるアキトに、一人の姿が映り込んできた。

 家の近くの十字路。そこに立つ、一人の少女。

「ミフユ!」

 走りながら呼びかけると、その少女は足を止め、アキトの方を振り向いた。

 アキトはポケットの手を突っ込み、その中にある堅い物体の感触を確かめると、それを手に取りミフユへと投げつけた。宙を舞うそれを、ミフユは慌てて掴み取り、驚いたような目でアキトを見つめる。

「これは…何?」

「何?って約束のお礼ってやつだよ。特に礼をすることも無いんだけどな」

「ああ、アレ?覚えててくれたの?ありがとう!」

 そう言うとミフユは、手のひらのストラップをまじまじと見つめた。

「……かわいい。本当に、ありがとう」

 ミフユの顔が、柔らかに綻ぶ。それを見て、アキトの顔も自然と綻んでいた。


 この顔が見られるのなら、俺は何だってやってやる。


「あと、ナツキの件なんだけどさ」

 調べた限りの情報をミフユと共有し、次の手を考える。

 やるぞ、と心に決めると、今や一分一秒が惜しく感じられた。


「その件だけど」

 帰りの新幹線でも考えて、ミフユは一つの決心をしていた。

 その決心に従い、ミフユは言葉を続ける。

「その件だけど、アキトに迷惑かけっぱなしでごめん。でも、もう大丈夫だから」


 一瞬、何かで頭を殴られたみたいに、アキトの脳内は真っ白になった。

「え?え?大丈夫……って…………?」

「アキトを無理に巻き込んじゃってごめん。私一人でもなんとかしてみるからさ。……もちろん、何か分かったら教えるね。嫌じゃなければ」

 何が何なんだ。一体、何を言っているんだ。

「いや別に無理にとは思ってねぇよ」

「そうは言うけど、ナツキについて調べるのはいろいろと大変だもの。私の興味で、アキトをそんな大変な仕事に縛り付けるわけにはいかない」

「し、縛り付ける……って……」

 その言葉が、冷たいナイフとなってアキトに突き刺さる。

 その傷口から、冷ややかなものが広がっていくのを、アキトは感じた。

 何なんだ。何なんだミフユは。

「だから大丈夫。迷惑かけちゃってごめんね」

 そう言ってミフユはニコリと笑った。

 含みの無い笑顔。それが逆にアキトの心を締め付ける。

 違う。そうじゃない。

「じゃあ、分かったよ」

 違う。そうじゃないんだ。

「分かったよ!もう勝手にやってくれ!俺は、蚊帳の外で、ほっといてくれよ!!」

 自分でもびっくりするほどの大声に、ミフユの顔から笑みが消える。

 もうどうすれば良いのか、アキトは自分でも分からなかった。

 分からないから、アキトは逃げるように走り出し、ミフユと目を合わさないように十字路を曲がる。

 握りしめた拳の痛みだけが、アキトの脳内に響いていた。

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