魔導書と最初の試練

眠い…


目覚まし時計はとっくになっている。が、私はそんな事も気にせず寝ていたのだ。


あ、これまた遅刻パターンじゃん。



急いで朝食を食べ、学校に向かう。


やっぱり、もう少し早起きした方が良いかな…


そう思いながら今日も同じ道を走る。


—————————————————


学校に着いた…ってあれ?何あの人の集まり。


「あっ、ナギサおはよー」

ユイが話しかけてくる。

「おはよー、何かあったの?」

「あー、それがね……

学校が変な人達に乗っ取られてて、今入れない状況なんだよー…」

「え!?」

「あの人達、『魔導書を出せ』って言っていたような気がしたよ。学校に魔導書なんてあったっけ…」

「え…」

もしや、あの人達は私の魔導書を狙っているのではないか、という悪い予感が頭によぎった。


そしてその予感は見事に的中した。


「あっ、アル様!あいつです!あいつが魔導書を持ってます!」

聞き覚えのある声。そう、昨日来た不審者だ。

「ごめん、ユイ。ちょっと鞄持ってて」

「え?い、いいけど…」

「すぐ戻るー!」


—————————————————


私は魔導書を持って必死に逃げた。


体力の限界もあり、そこまで遠くには逃げられないので、先生の研究所へ向かった。



「先生!魔導書を何処か安全な所に…」


声をかける。しかし、反応は無かった。


「先生…いますか…?」


その時、突如後ろから気配がした。


「君かね、魔導書を持っている小娘というのは。」

昨日の不審者と同じような格好をしている。

「誰ですか!!」

「魔導書を渡せ。」

どうやら、皆揃って私を狙っているらしい。

「ナギサ…魔導書を渡しちゃダメだ…」

「先生!」

先生は弱っていた。見る限り深い傷を負わされている。

「黙っていろ!」

「逃げ…て……」

先生まで…!


とりあえず私は逃げるしかなかった。



「もう…ダメ……」

体力ももう限界だ。


青い鳥が飛んできた。私幻覚でも見てるのかな…

「学校に来て、魔導書を忘れないで」


聞き覚えのある声が、私の耳に届く。

この声は、まさか…


「母さん……」


そう、メッセージの送り主は、母である魔導士レイズなのである。


—————————————————


その頃学校では。


「ちゃんとメッセージは届いてるかしら。あの本がないと…」


レイズは苦戦していた。


「生徒の避難は終わりました!」

「ありがとう。敵の状況は?」

「さぁ。校舎のあちこちに散らばってますから、何時何処で現れるかは分かりません…」

「わかったわ。もう少し時間を稼いで。もうじき娘が来る筈だから」



ようやく学校に着いた。


この辺りの天気が悪いのはあいつらの所為なのか…

中に入ってみよう…



恐る恐る進む。


教室は全て閉ざされている。敵の逃げ場をなくす為だろう。


普段誰かがいるはずの職員室も、閉ざされていた。


なんだか不気味だな…


「動くな」

「ひぃぃ!!」


突然すぎて声が出てしまった。


「魔導書を渡せ。」


あっ…

これがピンチというやつなのか。


「早く!」


すると、どこかから声が聞こえた。

「バインド!」


「うっ!」

謎の人は動きを止めた。


「ナギサ!」

奥から母さんが出てきた。


「母さん、居たの!?」

「居たも何も、この関連の仕事を片付けていたら事件が起きて、今ここにいるのよ。」

「そうだったのか…」

「とりあえず、無事で良かったわ。」

そんな会話も束の間。


「おやおや、これはこれは。親子揃って都合がいい。」

「アル…!」

アルと呼ばれたその男は、ゆっくりこちらへ近づいてきた。

「いい加減魔導書を渡してくださいよ、レイズ殿。貴女が持っていても何の役にもたちませんから」

「そうやって、嘘ばかり吐いて何が楽しいのかしら?」

「我々の理想の為なんです。どうかお願い出来ませんか。」

「理想って言ったって、ミラルを乗っ取るだけでしょ!」

乗っ取る???

話がついていけんぞこれ。


「ならばしょうがないですね。」

とアルは言い放ち、

「ここで死んでもらいましょうか。」

黒い笑いを見せた。

「懲りないわね。ナギサ、魔導書を貸して」

「はいっ!どうぞ!」

「この時の為に隠してたんじゃないけどな…」


母さんの周りに魔法陣らしきものが光っている。

「終わらせるわよ」

「何を…」

魔導書が光り出す。

「転移の魔法、『ワープラ』!!!」

母さんがそう言うと、魔導書から光が放たれた。

「まさか…!!」

「もう二度とミラルに足を踏み入れないで。」


その光はアルに向かって進んでいく。まるでレーザー?だっけ?多分そんな感じ。


「必ず…戻ってくる…ぞ……」

あーあー、もうそう言う悪あがきはいいんで。


光が消えると、アルは消えていた。


「ふぅ…これでとりあえずは大丈夫ね…」

「とりあえずは、なんだね」

「本当はこの場で片付けようと思ったのだけれど、このままだと身体が持たなかったのよ。魔法は使いすぎると最悪死んでしまうし」

えぇっ!?使いすぎると死ぬの!?

「それに、校舎を傷つけたくなかったし。後から直すの大変でしょ?」

確かに。


「さぁ。家に帰りましょう。久々の我が家だわー…」


「これで終わりだと思ったのか?」

!?

アルの声がする。

「な、何故…!」

「あんなチョロい魔法、痛くも痒くもなかった。それに、私の『超反射』を使えばそのまま保存出来るしな!」

「それってまさか…」

「そう、今先程お前が放った同じ魔法を使えるってことだ!」

先程まで敬語だったアルだが、今では勝ち誇ったように話しかけてくる。

「さーて、どっちを飛ばしてやろうかな…」

咄嗟に私は母さんが落とした魔導書を拾った。

「フォース!」

「無駄だ!『アンチウォール!』」


──!!?!


放たれた魔法は、私に直撃し、まもなく意識を失った。

「ナギサ…!!!」


「ようしわかった。この小娘を飛ばしてやるよ!!!」

「待て!!!」


遅かった。

「『ワープラ』!!!遠いところまで飛んでしまえぇ!!!」


先程と同じ光が、私の全身を覆う。


私の記憶は、そこで途切れている。


—————————————————


「……!!!」

「さて…次はお前だな」

「…わかったわ。そこまでやるなら、私ももう容赦しないわ。」

「そう来なくっちゃ…!」


「魔導書も一緒に飛ばしちゃったわよ」


アルは予想外だったようだ。

「え、ぇぇええぇぇぇええ!!!!??」

「頭の悪さは、敵ながらあっぱれだわ。呆れた。」


その後、アルは地元の病院に運ばれ、重度の失神、との診断が出た。

1週間も目を覚まさなかったと言う。


「ナギサ…」


ナギサは多くの人を助けた代わりに、ミラルとは程遠い何処かに飛ばされてしまった。


悲劇の1日は幕を閉じた。

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