〈マッスル41〉 おっぱい

「し、しまった! 筋肉を侮っていた! そうか……お前まさか、その貧乳好きを助ける為に、ワザと捕まったんだな……」


 成る程。そうだったのか。さくモンも、非常に悔しそうな表情を浮かべている。


「さあ、全て正直に話すんだ! ボクには全て分かっている!」


「オメェら、変なマネすると原初のバハムート・イ破壊ビルシャーク龍魚・ドラグーンを召喚するぜ?」


 あのバカ、今、何か言ったか?


「我らは、隠す事など一つも無い! おウタは正真正銘の自殺なのです……! おっぱぁぁぁい!!!!」


 陸様は、表情一つ変えずに、おっぱいと叫ぶ。


「そうかい? その割には、そこの金髪ブーメランパンツの筋肉は、随分と物騒な凶器を隠しているね?」


 デジルは、さくモンを指差した。凶器? さくモンは、ブーメランパンツしか履いていないのだ。凶器なんて持っていない。


 いや、まさか……!?


 あ、あのパンツの下に凶器を……!?


「何の事だ? 私は、凶器なんて何も持っていない!」


「じゃあ、昨日の集会の時、無江警部をどうやって眠らせたのかね?」


 デジルが尋ねる。


「アレは、陸様がおっぱい神の力を借りた魔法だ! おっぱいの魔法だ! マジカルおっぱいパワーなんだよ……!」


「じゃあ一体、これは何かな?」


 デジルがさくモンに近づく。まさか、公衆の面前でパンツを脱がす気じゃ!?


 しかしデジルは、私の予想を裏切り、パンツではなく、さくモンの割れた腹筋へと手をやった。


 何かを摘む。


「く、くそっ……!」


 デジルの指の間には、針のような物があった。


「これは、だ。この金髪ブーメランパンツの筋肉は、割れた腹筋の溝にコレを隠していたんだ。鍛え抜いた筋肉と共に、堂々と……」


 正に腹筋下暗し!


「間違い無いぜ。あの時、確かに俺のアーム苦痛アゥチしたのを覚えている。そして、意識が朦朧としてきたんだ!」


 さくモンは俯いた。もう、言い逃れはできないだろう。


「私は、陸様を真のおっぱい神にしたかったんだ……。おっぱいが、世界の真理だと証明したかったんだ……。おウタを殺したのも、私だ。それも、全て陸様の為……。私にしかできない役目だったんだよ! 私は、誰よりもおっぱいを愛していた! だから、褐色太ももが好きなおウタを許せなかった! 陸様の手を汚さず、私だけが悪者になれば済む話だったんだ!」


「おっぱいは、確かに夢が詰まっているだろう……。ボクも大胸筋は大好きだ。しかし、太ももにだって夢と筋肉が詰まっている以上、それを排除しようとするのは悪手じゃないかね? 太ももがあるからこそ、おっぱいの魅力に気づき、おっぱいがあるからこそ、太ももの魅力に気づける。この世に、存在してはいけないモノなんて存在しないんだよ。そこに筋肉がある限り、死んでもいい人間なんていない。キミも、筋肉業界の人間ならば、その意味が少しは解るんじゃないかね?」


「もう……何も言わないでくれ……」


 さくモンは涙していた。頰に光るものを拭い、陸様の方を向いた。


「陸様……おっぱい……」


「さくモン、おっぱい……」


 それは、これまでで一番優しい、陸様のおっぱいの一言であった。

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