〈おっぱい38〉 筋肉は証拠として十分

 え、警察は、必要ないの?


「ツユウ……。それに、今騒ぎを大きくすれば、せっかくここまで復興したおっぱい村は再び落ちぶれてしまいますよ? それでいいのですか? 彼の死は悲しいですが、きっと彼の魂は、おっぱい神により救われる筈です……。おっぱい……」


 陸様は、おっぱいと呟きながら、おウタに祈りを捧げている。


「でもなんで自殺なんか……!?」


 ツユウさんが言う。


「昨日……。おウタの奴が、部屋で『褐色太ももコレクション』って名前のエロ本を読んでいた所に遭遇したんだ……。多分、その罪を償う為に……おっぱい神に自らの命を捧げたんじゃないのかな……?」


 さくモンが、昨日の出来事を暴露した。


「なんと……! 褐色太ももとは罪深い……! 確かに、自ら命を断つには相応しい理由……! しかし、おっぱい神の元であれば、前世で太ももを愛していようとも、来世では必ずおっぱいを愛せる人間へと生まれ変われる筈です! おっぱい……」


 即ち、おっぱい輪廻転生。


「さくモン……。おウタの遺体を下ろしてください。私が彼の為に、おっぱいの舞を踊りましょう……」


「ぱい……!」


 さくモンが、宙に浮いたおウタに手を伸ばそうとした時だった。


「おい、そこの筋肉! 待つんだ……! その遺体に触れるんじゃない!」


 どこかで聞いた事がある声。おっぱい堂にこだました。


「あ、あなたは……昨日萌ちゃんの隣にいた……」


 陸様は、驚いた表情を浮かべた。


「ボクの事を覚えていてくれたのか! それは光栄だ……! ボクは、デジル。探偵さ……!」


 最高のサイドチェストと共に名乗る。


僧帽筋そうぼうきんが一際目立ち、そして、その逞しい大胸筋……! おっぱい神の生まれ変わりである私が、見落とす訳がなかろう……! おっぱぁぁぁい!!!!」


 陸様が両手を天高く掲げ、「おっぱぁぁぁい!!!!」と叫んだ。尊い。


 てか、なんでデジルがまだこの村に? デジルの広背筋こうはいきんの陰には、風炉島さんと、亜房先生もいた。みんな、この村から帰ってなかったんだ。


「これは自殺ではない。間違いなく他殺だ……!」


「違うのよ、デジル! この真っ黒な人はね、おっぱいじゃなくて、本当は太ももが好きだったの! その事が周囲にバレてしまったから、自殺しても当然な精神状態だったのよ! おっぱい教としての彼の気持ち、分かってあげて……!」


 私は、つい感情的になり、叫んだ。おっぱい教じゃない人間に、この気持ちは分からない。いや、分かってたまるか……。


「萌ちゃん、じゃあ彼は、一体どこから飛び降りたのかな?」


「えっ!?」


 ぶら下がったおウタの遺体をもう一度見上げる。上腕二頭筋の様な太いロープが、天井付近の鉄格子から降りてきて、おウタの体を地上1メートル付近の高さまで持ち上げている。首の所の結び目には、ダンベルが一つぶら下がっていた。


 しかし、周囲はフラット。飛び降りる場所も無ければ、椅子や脚立などと言った物も無い。


「誰かが、あの真っ黒筋肉を何処か別の場所で殺した後、自殺に見せかける為、わざわざ遺体をここへ吊るしたんだ! そして、彼は筋肉の関係で、恐らく体重は100キロ以上あるのは明らか。そんな人間を動かせるのは、この中でじゃないかね……?」


 デジルが指指す先にいた人物。


 それは……。


「しょ、証拠が無いだろ! コイツはな、一応はおっぱい教の仲間だったんだ!」


 なんと、さくモンだった。


「証拠だと? その仕上がっている筋肉が、何よりの証拠じゃないか!」


「筋肉なら、お前だって同じじゃないか!」


「し、しまった……!」


 そう。筋肉が証拠だと言うのならば、デジル自身だって犯人候補に上がってしまうのだ。


「さくモン……。その煩わしい筋肉を、独房の中へぶち込むのです。おっぱぁぁぁい!!!!」


 ややこしい事になった。

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