〈マッスル29〉 筋肉岩はあった

 床に埋まっていた亜房先生は、その後救出された。


 首月さんの許可の元、2階を破壊し、無理矢理助け出したのだ。亜房先生は、全身骨折の大怪我を負っていた。かなりの力で、地面にめり込まされたらしい。


 そして暫くして、気絶していた無江警部も目を覚ました。


 彼に事情を話すと、一足先に、にゃおぱれすを涅さんと共に去って行った。これから彼女は、大きな罪を償わなければならないのだから。


「本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


「酒を沢山飲めたし、気にしないでくれ! ハッハッハ!」


 余った酒を飲みながら、林田さんは、リバースプランクをしている。珍しい。サイドプランクじゃないとは。


「そう言えば、筋肉岩のツアーで来られたんですよね!? お別れの前に、筋肉岩まで案内しましょうか!?」


 首月さんが言う。筋肉岩の存在をすっかり忘れていた。


「え!? 筋肉岩は、無くなったんじゃないの!?」


 夏井さんが、真っ先に反応する。


「本当は涅だって、筋肉岩がどこにあるのか知っていたんです。面倒だから、敢えて言わなかったのでしょうけど」


 そう言って首月さんは、にゃおぱれすの裏へと、私達を案内した。


「大雨で以前、土砂崩れが起こりました。その際、山の山頂から筋肉岩が転がり落ち、にゃおぱれすへと直撃したのです。あまりの衝撃で、家を支える主要な柱が欠損。だから、こんなにも脆い建物へと変貌してしまったのです」


 にゃおぱれすの壁に、巨大な筋肉岩がめり込んでいた。


「これが筋肉岩か。素晴らしく美しい! まるで、大胸筋の様な滑らかさ。大腿筋の様な逞しさ!」


 デジルが、筋肉岩にベタベタと触れる。


「わ、私も!」


 夏井さんも、筋肉岩に触れ、そして写真を撮る。一行は、筋肉岩を暫く満喫した。


 首ポロ様の伝説は、やはり伝説の類いであったが、筋肉岩からは、悔しいけど神秘的なものを感じた。


 そして、あっという間に時間は過ぎ、お別れの時が訪れる。


 首月さんなら、これから一人でも必ず強く生きていける。私はそう信じている。みんな首月さんとお別れの握手をし、やがて、無江警部が手配してくれた救助隊がやって来た。


 筋肉山を後にする。


 非現実的な世界から、元の世界へと戻る。


「なんだか疲れたけど、ほんの少し人生の糧になった気がしたわ。亜房先生に、このグリム童話の本をプレゼントするから、彼の骨折が治ったら渡してちょうだいね」


 夏井さんが、私にグリム童話の本を手渡した。


「私は、帰ったら少し休んで、全国各地で色んな取材を続けるけど、また縁があったら遊んでね」


「もちろんだ! 筋肉業界の人間は、いつでもウェルカムだ!」


 デジルは、最高のサイドチェストを決めた。





 第2章 にゃおぱれす殺人事件


 ー 完結 ー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る