〈マッスル28〉 首ポロ様より人間は怖い

「事故当日の日記ね……。私に代わりに読ませてくれない?」


 夏井さんが、風炉島ぶろしまさんが手にした日記に向かって手を伸ばす。恐らく彼女は、真相を逸早く知りたいと思ったのだろう。


「じゃあ、読んでもらおうかしら。あ、こっちはブロッコリーだった! がぶっ!」


 風炉島さんが、危うく日記とブロッコリーを取り違える所だった。なんとか、夏井さんの手へと無事に日記が渡る。


 シーンとする空間。


 数秒後、夏井さんが、くろつちさんの日記を臨場感のある声で読み始めた。


「やっと計画を実行に移した。首月家の車には、エンジンをかけると爆発するように仕込んでいた。

 炎で散る人間の姿は美しい。

 欲望が抑えられなかった。

 二人の命を綺麗に奪った。

 だけど、何故かぽろろだけが生き延びた。悪運が強い子だと思った。

 しかし、よくよく考えたらこれは好都合なのだ。彼女が生きているのならば、私は、これからも首月家の執事として支える理由となり、首月家の財産にも手を出せる。

 ぽろろには、私の為にこれからも生きてもらおう」


 首月さんの両親が亡くなったのは事故なんかじゃなかった……! これは、完全な殺人……! 本人の日記ならば証拠として十分……!


「涅が毎晩日記を書く習慣があった事は、ずっと側で見てたから知っている! あの事故の日は、あんな悲惨な一日だったのに……貴女は、これまでに見た事が無いぐらい楽しそうな笑顔で日記を書いていた! しかも、私の手術が終わった後の病室で……!」


「くっ……!」


 涅さんは、唇を噛みしめる。


「日記を金庫に保管しているのは知っていた。だけど、解除キーは分からない。ずっと、毎日毎日隙を見つけては、日記を盗み見ようとしたんだけど、金庫が開かない限りは無理だった! そんな中、筋肉業界の人達が、突然にゃおぱれすに来てくれた。筋肉は正義! 筋肉に不可能は無い! 彼らなら、金庫を破壊できる可能性があった!」


「なるほど。それで、亜房先生が一人になったのを見計らって、先ずは彼にコンタクトを取った訳だね」


「そうよ。何だか彼は、何でも受け入れてくれそうな人だったから、私は彼を選んだの。彼に全てを話した。二人で相談した結果、亜房先生首ポロ作戦を実行する事にしたの。だけどまさか、こんなにも早く、金庫の破壊に辿り着くとは思っていなかったわ! 筋肉だけじゃなく、頭もキレるのね……」


「ああ、ボクはマッスル探偵さ! 筋肉は全てを解決する! そして、涅さん……詳しく話を聞かせてもらわないといけませんな……! 萌ちゃん、無江警部を呼んでくれ!」


「さっき、私がクッション代わりにしたから、まだ気を失ってるよ?」


「しまった!? じゃあ、眼が覚めるのを待とう!」


 こうして、急転直下で事件は解決した。首ポロ様なんていなかった。


 生きた人間は、時に首ポロ様より残虐だと学んだ。

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