〈マッスル27〉 金庫なんて壊せばいい

 こうして、全員でくろつちさんの部屋へと集まった。


「これが金庫です……」


 業務用と思われる、立派な金庫があった。


「中身を見せてもらう事は可能ですかね?」


 デジルが尋ねる。


「いえ、暫く使ってなく、恥ずかしながら、解除のナンバーを忘れてしまったんです。中には、大した物は入っていませんよ……」


「いや、番号など、ボクらには必要ない事さ。林田くん! 金庫をしっかり押さえていてくれないか?」


「任せろー! ちょうど酒が回ってきていい気分なんだ!」


 林田さんが、千鳥足で金庫の元へと行くと、上腕二頭筋に力を込め、しっかりと金庫を押さえつけた。


「少々乱暴で悪いね!」


 更にそこへデジルが加わり、全身の筋肉で金庫の破壊を始めた。今更ながら、何でもありだ。金庫はどんどん歪んでいき、遂には鍵が壊され、最後に扉が外された。


 筋肉の前に、鍵なんて無意味だと知った。


 今後近所で銀行強盗でも起こったら、犯人の候補に、この筋肉達も挙げられるだろう。


「さて、中にはノートが数冊……」


「待ってください! 金庫を無理矢理壊した上に、私の私物を好き勝手するなんてひど過ぎます……!」


 涅さんが、これまでで一番大きな声で抵抗した。


「これは日記だね。ぽろろちゃん。ご両親と共に、事故に巻き込まれたのはいつだったかな?」


 デジルが、首月さんに語りかける。


 デジルの問い掛けに、少し目つきが変わる首月さん。


 しかし彼女は、事故の後遺症で言葉を失っているんだ。デジルは、それを忘れてしまったの……?


 だけど驚いた事に、なんと首月さんが口を開いたのだった!


「5年前……! 6月27日、忘れもしない、ちょうど私の誕生日でした! ちょっと、その日の涅の日記を見てください……! 絶対、何かヒントがあるから! 間違いないから! 絶対、怪しいんだから! もう、ずっと私は怪しんでるの!」


「興奮するな首!」


 デジルが、突如早口で喋り始めた首月さんの暴走を止めた。彼女は言葉を失ってなどいなかった。これまで無言の日々を送っていた間に、溜まりに溜まった想いが一気に吐き出されたのだろう。


「これが、5年前の日記ですね! がぶっ!」


 風炉島ぶろしまさんが、早速当時の日記を見つけ出した。


「ぽろろ様! 何故、この5年間、口を閉ざしていたのですか!?」


「それは、いつかこの様な日が訪れると信じていたからですよ! 両親の仇……やっと、全てが終わる!」


 更に首月さんは、車椅子から立ち上がった。歩けない振りをし、車椅子生活も5年間貫いていたのだ。


「久しぶりの来客が、筋肉の人達で良かったです!」

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