〈マッスル25〉 じゃがりこおじさん

 私は、デジル達が集まる元へと戻った。床が、今より壊れないように慎重に……。ゆっくり歩いても、バキバキと音がする。仕方がない。


 レオパレス21の様な不良物件なのだから。


「デジル……何も無かったよ」


「そうか、それは困ったぞ! 何か手掛かりがあれば良かったんだが……」


 無江警部と、くろつちさんが、首月さんを連れて戻って来ていた。


「萌様……! ご無事でしたか……!」


 無江警部の声が聞こえたような気がした。


「あ、デジル……。2階からどうやって降りよ……? 階段壊れちゃったし……」


「ん? 問題ないぞ! 無江警部! 階段があった場所にうつ伏せになって寝るんだ!」


 デジルが、力付くで無江警部を床に押さえつけた。なんとなくやりたい事は分かった。


「さあ、無江警部の上に飛び降りるんだ!」


 やはり、そう言う事か。私は躊躇いもなく、無江警部の上に飛び降りた。日頃の恨みが晴らせる。


「ぎゃおっ!?」


 無江警部の断末魔の声。見事に、彼の背中がクッションの役割をしてくれた。地面でピクピクしている。


「本当に無事で良かったよ!」


「ありがとう……。でも、亜房先生が……」


「大丈夫さ。必ずボクが犯人を捕まえる!」


 デジルの大胸筋が盛り上がり、彼の着ていた服が弾け飛んだ。どうやら本気らしい。


「あ……その本……」


 夏井さんが、私が手に持っている本に気がついた。彼女が、亜房先生に貸していたグリム童話の本。


「亜房先生が、殺される前に読んでいたみたい……」


「む……? ちょっと貸してくれ!」


 私の方に、デジルが丸太の様に太い腕を伸ばす。本を渡すと、パラパラとページを捲る。


「この本のページの折れ目は何だ? これは、比較的新しい折り目だ。昔から夏井さんが折ったものだったら、しっかり折れ目は残る筈だが……」


「私は折ったりした事はないけどな……」


 デジルが、折れ目がある箇所を確認する。『子うさぎのお嫁さん』、『金の鍵』……。2箇所だけだった。


「成る程……」


 一番最初に、何かに気がついたのは、万鳥まとりさんだった。タバコを切らしたのか、手元には、じゃがりこを一本挟んでいた。


「私には分かったよ……」


 そう言って、彼は、じゃがりこをひと齧り。


「グリム童話のタイトルの頭文字だ……。『金』と『子』……。即ち、犯人は金子さんだ……!」


 残念ながら、金子と言う人物は周りに存在しなかった。

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