〈マッスル18〉 ブロッコリー推し

 あの女性は、本当に優しい人だな。私達みたいな怪しい人達を助けてくれるんだもん。だけど、筋肉達が部屋をぐちゃぐちゃにしてしまったから、流石に後で怒られるだろうな……。


お姫様マイプリンセス……。如何どうされたのです? 表情が暗いですよ?」


 バカの極み無江警部が、私に話し掛けて来やがった。


「私は、筋肉達が羨ましいよ……」


 ため息を大きく吐いて、ふかふかなソファに座った。非現実的な筋肉達を前に、少し疲れが溜まってしまったようだ……。


「申し訳ないね。私の退院祝いで、こんなに苦労をかける事になるとは……」


 万鳥まとりさんは、左の鼻の穴でタバコを吸っていた。最早、この世界は何でも有りだ。


 みんな、ボケないと生きていけないのだろうか? でも、ある意味で、これが幸せな生き方なのかもしれない。私は、デジルに出会わなければ、毎日決まった仕事を繰り返すだけの日々が続いていたのだから。筋肉達に出会えた事は、少なくとも刺激になっている。


 筋肉達に振り回されて、疲れてしまう事はあっても、今、幸せなんだ……。


「お待たせしました……」


 なんと早くも、あの女性が、ワゴンにお酒と料理を乗せて戻ってきた。


「やっぱり食材があまり無かったので、料理の方は少々偏ってしまいました……」


 私は料理を見て唖然とした。


 ブロッコリーのサラダ。ブロッコリーの刺身。ブロッコリーの唐揚げ。ブロッコリーのバターソテー。ブロッコリーのカレー。ブロッコリーのシャーベット。


 なんか、私の周りってブロッコリーだらけじゃない? 気のせいですかね?


 お酒は、ストロングワンと二番絞り、シャンパン、そして、高級そうなワインもある。


「うわー! ブロッコリーだ! がぶっ!」


 風炉島ぶろしまさんは、テンションが高まった様子で、自前のブロッコリーを齧った。


 料理が、テーブルの上に並んで行く。


「皆さん、好きなお酒を手に取ってくださいね」


「酒だ酒だぁぁぁあああ!!!!」


 林田さんが、誰よりも早く、ストロングワンのリンゴ味を握り締めた。


「ブロッコリー料理ばかりですみませんが、よろしくお願いします。紹介が遅れましたが、私の名前は、くろつち 蛍火ほたるです。先程、車椅子に座っていた、首月くびつき ぽろろの執事でございます……。皆さん、お疲れでしょうから、早速、宴会を始めましょう……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る