〈マッスル17〉 やりたい放題

 車椅子を押す女性の後をついて行く。壁には絵画があちこち飾られており、等間隔で立派な花瓶も並ぶ。こんな豪邸に入るのは初めてだ。私達は、長い廊下を歩き、1階の一番奥に位置する部屋へと案内された。


 その一部屋だけで、普通の家の敷地分の面積は優に超えている。


 大きなテーブルの周りに、フカフカのソファが囲んでいる。信じられないぐらい巨大なリビングだった。


「食料を切らしかかっていますので、あまり多くは作れませんが、少々お待ちください……。簡単な料理とお酒を用意致します」


 女性はそう言うと、車椅子の少女を連れ、何処かへと消えて行った。なんだか、ちょっぴり不気味な二人だ。


「こんな豪華な館、初めて来たぞ! 筋肉が騒いでいる! 早速、スクワットだ!」


 デジルがジャンピングスクワットを始めた。すると……。


「うおっ!?」


 なんと、デジルが地面に着地した瞬間、木の床が割れてしまったのだ。大腿筋全てが埋まってしまう。


「ボクの筋肉に耐えれなかったみたいだね!」


 呑気か。人様の家、ぶっ壊してるじゃねぇか。デジルは、笑いながら立ち上がる。


「これは大変ですね! 穴、埋めときましょう! がぶっ!」


 風炉島ぶろしまさんが、床に空いた穴をブロッコリーで塞ぐ。器用に敷き詰めているが、すぐにバレるのは明らかだ。「あれ、床がふさふさの緑色だ!」って、一瞬で気がつくだろ普通。


「おーい、壁も簡単に穴が空くぞぉ!」


 林田さんが、何故か人差し指で壁に穴を開け続けている。この筋肉達、やはり野放しにすると危険だ。


「薄々気付いていたけど、この人達、首ポロ様より伝説じゃ……?」


 やっと、夏井さんが確信したようだ。


「あ、夏井姉さん……。もし良かったら、あとでグリム童話の本読ませてもらってもいいかな? ぼく、本好きなんだ……。みんなのテンションについて行けそうにないから、読書でもしたいなと思って」


「いいわよ……。あなた、枯れ枝みたいに細いけど、中身は一番まともそうだからね」


「ありがとう」


 確かに、亜房先生は、一番まともだ。

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