〈マッスル15〉 亜房先生はポッキーより脆い
「部屋の中を覗いて、旅人は思わず声を漏らしてしまいます。あの可愛らしい少女が、狂気に満ちた表情で、大きな包丁を研いでいたのです。
あらら、部屋から出たら駄目だと言ったのに、寿命が縮まっちゃいましたね。
それが、旅人が死ぬ前に見た最期の光景。そして、ゴドンと、頭部が地面にぶつかる音が、部屋に響きました。
それからも少女は、何年、何十年と長い年月をかけて、時折訪ねて来る旅人の頭部を集め続けました。
少女は此の世の者ではありませんでした。何年経っても、ずっと見た目は可愛らしい少女のまま……。そして、首ポロ様といつの日からか呼ばれ始め、また一つ、二つと、集めた頭部を練り合わせて、やがて一つの塊にして遊びました……。それが後に筋肉岩と呼ばれようになります。
少女は、今も何処かでひっそりと生きている……。旅人が迷い込んで来るのを待って……。おしまい……」
夏井さんは、首ポロ伝説を語り終えた。この地は、場所が場所なだけに色々な話が生まれた訳か。だって、よっぽど私達みたいな暇人じゃない限りは来ないような場所だもん。変な噂が沢山生まれても不思議じゃない。
「夏井姉さん……。面白かったよ。ぼく、そういうお話し好きだな」
亜房先生が拍手を送る。
「あらほんと? 他にも私は普段、グリム童話の読み聞かせをしているのよ……」
夏井さんは、懐から分厚い本を数冊取り出した。グリム童話全集だ。こんな重そうな本、いつも持ち歩いているのだろうか?
「亜房先生、夏井さんの荷物を持ってあげるんだ! 筋トレだ! その本を持って歩けば、必ず体が鍛えられる! 体幹を意識するんだ!」
デジルが言う。確かに、普通の女性が持って歩くには明らかに重たい本だ。それに、山道となれば大変なのは間違いない。
「うん、ぼくが持つよ……。夏井さんのお話し面白かったし、お礼も兼ねてね」
「ありがとう。優しい子ね……。骨折しないように気を付けて」
「大丈夫だよ。去年、自分の足を踏んだのを最後に骨折してないからね」
いや、亜房先生、骨密度大丈夫なんですか!?
亜房先生は、夏井さんから荷物を受け取る。かなり重かったのか、亜房先生の腕の筋肉が断裂したみたいで、痛そうな表情をする。
だが、それがまた可愛い。
「おーい、みんなぁ! さっきから言おうかどうか迷ってたんだけど、あっちに建物が見えるぞぉ! かんぱぁぁぁい!!!!」
酔っ払いサイドプランク野郎が、やはりサイドプランクをした状態で遠くを指差す。その先に確かにあった。木々の隙間から、明らかに建物らしき何かが見える。
「嘘!? まさか首ポロ様の館!?」
夏井さんが驚く。
「よく見つけたな、林田くん! 人が住んでいたら助かるぞ!」
「デジル、俺のサイドプランクのお陰さ! かんぱぁぁぁい!」
謎の建物まで、そんなに距離はない。私達は歩き始めた。ところで、まさか本当に夏井さんが話してくれた首ポロ様と関係のある館なのかな?
ちょっと、気味が悪いかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます