〈マッスル8〉 マスルトトキシン

「心臓が止まっている! 亜房あぼう総合病院へ運ぶ手配をしろ!」


 一方で、風炉島ぶろしまさんと共に現れた救急隊も慌ただしく動いている。どうやら、この近くで一番有名な病院へと搬送するつもりらしい。そこの病院は、その名の通り、全国的にも有名な亜房先生が若くして医院長を務めている。日本を代表するドクターであると共に、その幼く、可愛い容姿から、熱狂的なファンが多く、薄い本同人誌となって一部界隈を賑わす。


 実は、私も好きだ。


 いや……今はそんな事どうだっていい。


 殺人とは、一体どう言う事なんだ?


「万鳥くんから、筋肉毒の一種であるマスルトトキシンの匂いがした……。タバコの臭いよりも強烈にね……」


 マスルトトキシン?


 初めて耳にした。


「風炉島ちゃん……。無江なしえくんに捜査に入ってもらいたいから、今すぐ彼を呼んでくれ! 残念ながら、犯人はこの中にいる!」


「わ、分かったわ! がぶっ!」


 どんだけブロッコリーが好きなんだよ。てかそれよりも……犯人がこの中にいるの?


「恐らく、マスルトトキシンは、万鳥くんが飲んだプロテインの中に混入していたんだ!」


「え、でも誰がどの種類のプロテインを飲むかは分かんないじゃん!」


 私は、デジルに率直な疑問をぶつける。


「そうよ、デジルさぁん。アタシ、万鳥おじさんと同じ紅茶味のプロテインを飲んだのよ。アタシは、今でも元気よ!? 原因は、プロテインじゃないわ」


 朋岡さんの言う事が正しい。私は確かに見た。朋岡さんが、万鳥さんの分のプロテインを入れている所を。


 あ、でも待って。


 もし朋岡さんが犯人なら、あの動作の中でこっそり毒を入れる事が可能な瞬間はある……!


 となれば、デジルは朋岡さんを疑っているの?


「いや、原因はプロテインで間違いない。無江くんが来れば、直ぐに判る」


 そう言いながら、デジルはド派手にスーツを脱ぎ始めた。ネクタイを解き、上着を脱ぐと、シャツを両手で引き千切った。露わになる上半身。そして、ベルトを破壊し、ズボンも脱ぐ。


 あの時と同じ、ブーメンランパンツ姿となった。


 素晴らしい筋肉だが、冷静に考えるとやはり変質者。


 しかしデジルは、この姿で推理をする時にこそ真の実力を発揮するのだ。これが、一種のルーティンである事は有名。


「私の腹直……。いや……直感が正しければ、犯人はキミだ!」


 一瞬、腹直筋と言いかけてしまったようだが、デジルは私の後方に立つ人物を指差した。

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