〈マッスル5〉 オネェのボディビルダー

 エレベーターが開くと、そこは完全にパーティー会場。既にお茶会の準備は整っていた。普段は会議が行われているであろうデスクに、お洒落なテーブルクロスが敷かれてある。


 窓際には、ピンク色のグラジオラスが飾られている。花言葉は、「たゆまぬ努力」。まさに筋肉業界に相応しい。


 そして、席には既に数名の筋肉達が座っていた。


 一番奥には、デジルがいる。


「やあ、万鳥くん、萌ちゃん。ようこそ!」


 デジルが明るく迎えてくれた。


「萌ちゃん、前においで! 紹介するよ!」


「あ、はい」


 筋肉達は、私を不思議そうな顔で見ている。興奮するな……。この空間は、体脂肪1桁の世界なのだから。


 私は言われた通り、デジルの元へと行く。


 すると、デジルが私の肩に右手をポンと置いた。恥ずかしい! 触られた!


「どうした、萌ちゃん? 僧帽筋がガチガチじゃないか? リラックスするんだよ!」


「はい!!!!」


 ゆっくりと深呼吸をして、僧帽筋の力を抜く。このままだと肩が凝ってしまう。


「この前間違えて、ブーメランパンツのまま歩いていた時にね、また警察に捕まってしまってね。その時、彼女がボクを助けてくれたんだ! しかも彼女は、プロテイン製造業に携わっている……! これは何かの巡り合わせだと思ってね。それで、今日はお茶会に招待したんだよ!」


 デジルの手は、まだ私の僧帽筋に触れている。


「さあ、ボクの隣に座るんだ! 今日はしっかりおもてなしするよ!」


「あ、あざます……!」


 緊張と興奮、今、多分顔が真っ赤になっている。デジルの隣の椅子へと、足を震わせながら座る。


「あらやだ、可愛いお嬢ちゃんじゃないの!」


 なんと、私の右隣に座っている筋肉は、オネェであった。


「びっくりしただろ、萌ちゃん? 彼は、心は女の子なんだ。帰宅野きたくの ルアンくんだ。仲良くしてくれな!」


「よろしくね」


 ルアンさんは、綺麗なウィンクをして来た。眼輪筋がんりんきんも鍛えてあるのだろうか?


「そして、向かい側に座っている女性が、朋岡ともおか 波女なみめちゃんだ。彼女は、女性だけどオネェなんだ!」


「いや、何でだよ!」


 やばい、反射的に突っ込んでしまった。


「萌ちゃん、たまに言葉遣いが汚くなるよね?」


「気のせいですわよ、ホッホッホ!」


 なんとか誤魔化す。でも一体どういう事? 女性でオネェって? つまり、オネェ女って事なの……!?

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