〈マッスル2〉 筋肉は尊い
「待たせたね、ありがとう」
「アンタ、いくら筋肉があるからって無茶し過ぎでしょ……!? 車を受け止めようとするなんて正気……!?」
「ありがとう!」
「いや、褒めてないわ!」
あの男は、やっと警察署から出てきた。今度はしっかり服を着せられている。事故から私を救った事実もあったし、釈放されたのだ。
もうすっかり夜だ。寒い。
「アンタ……何処かで見たことあると思ったら、マッスル探偵のデジルでしょ? やっと思い出した」
そう、筋肉雑誌のmuki-mukiでも有名だ。ボディビルダー兼探偵業。本名かどうかは知らないが、
「ボクの事を知っているとは光栄だね。そう言えば、さっきはプロテインをありがとう……。もしかしてだけど、キミも筋肉業界に携わる人間なのかい? キミの身体にプロテインの匂いが染み付いているよ。それに、さっきボクにくれたプロテインは、ブロッコリー味だった。そんなプロテインは、日本どころか、未だに海外でも販売されていない……。差し詰め、プロテイン製造業の仕事と言ったところじゃないか? 素晴らしい仕事をしているね。尊敬するよ。ハッハッハ」
当てられた。やはり、それなりに推理力があるのか? いやそれよりも、あの状況の中において、尋常じゃない観察力だ。探偵を名乗っているだけの事はあるな……。
「もう暗いし、駅まで送ろう! レディを一人で帰す訳にはいかない!」
「あ、ありがとう……」
デジルの日焼けした肌は、夜に溶け込んでいた。相変わらず白い歯だけが目立っていて、ストレートに言えば不気味だ。だけど、悪い人ではないのは解った。
デジルが先頭に立ってくれて、駅の方に向かって歩き始める。背中が広い。私の2倍以上はあるだろう。実は私、かなりの筋肉フェチだ。犯罪にならないのであれば、しがみつきたい。
更によくよく考えれば、このデジルって言うマッスル探偵は、顔も全然普通で、筋肉は当然エクセレントで、性格も明るい。頭だって良い筈だ。最高じゃないか。益々興奮して来る。
だけど、警察署は近く。理性を頑張って抑えねばならない。
「ところで、キミの名前は何て言うんだい?」
「ひぃぃ!?」
妄想の最中に声を掛けられ、ドキリとする。
「
「萌ちゃんは明日仕事かい?」
「休みですけど?」
「そうか、じゃあ、ぜひボクの経営するマッスルスタジオに案内しよう。キミも筋肉業界を影で支える人間ならば、ぜひ来て欲しい。少々暑苦しい場かもしれないけどね」
そう言いながらデジルは、私に名刺を差し出した。マッスルスタジオの住所も載ってある。
「明日の11時頃においで。ボクの友達のボディビルダーが集まって、筋肉で語るお茶会でもしようと思っていてね。どうだい?」
筋肉で語るお茶会……?
もしかしたら立派な筋肉にお触り出来るかもしれない。
「行きます……!」
下心を隠して、明日の休日は満喫しよう。
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