ヒーローの褒美

福岡スパイダース 対 北海道ホエールズ。


試合終了!

九回裏。スパイダースの若き大砲。

芝岡の二打席連続となる

サヨナラツーランホームラン!

福岡スパイダースがホーム三連戦の初戦を制しました。

放送席、放送席。ヒーローインタビューです。

今日のヒーローはもちろん芝岡選手です!








球場中のファンの芝岡コールの中。

芝岡は落ち着いた表情でヒーローインタビューへ。




「芝岡選手。お疲れ様でした。」

「ありがとうございます。」

「まず一本目のホームラン。あの打席はどんな気持ち でしたか。」

「そうですね。先制点が必要な場面でしたので、とにかく塁に出る気持ちでした。無心でバットを振った結果がホームランになってよかったです。」





無心は嘘である。

実際は頭の中は余計なことで一杯だった。




「では二本目の劇的なサヨナラホームランについてです。本当にお見事でしたね。打った瞬間の感触はどうでしたか。」

「打った瞬間、入ったって思いましたね。サヨナラホームランは初だったので最高でした。」




半分は本当である。

芝岡のプロ初のサヨナラホームラン。

それは本当。

最高…。

実際は二塁まで行けばいい。そういう気持ちだった。

結局、鹿島の話の続きは聞けていない。




「それでは最後に球場のファンの皆様に一言お願いします。」

「本日は球場までお越しいただきありがとうございます。ファンの皆様の声援が僕らの力になっています。明日からも試合は続きますが、応援よろしくお願いします!」




これは本当。






「今日のヒーロー。芝岡選手でした!」



球場に芝岡コールが響き渡る。

そのコールに芝岡は手を振りながら笑顔で返す。

そして、ベンチの裏に戻っていった。

芝岡の姿が見えなくなっても芝岡コールはしばらくやむことはなかった。




ベンチの裏に戻った芝岡はロッカールームに急いだ。



「お、芝岡、お疲れー!」

「芝岡、さすがやなぁ。」



チームメイトからの言葉を芝岡は軽く流した。

芝岡は自分のロッカーから

スマホを取り出しラインを開く。

友達リストから探す。鹿島の名を。



「…気になって夜も眠れないわ。」



鹿島にラインする。



『おい、今日の試合中に言ってたやつ何なんだよ。』



かなりぶっきらぼうな文面だが

それほど芝岡は鹿島の話が気になっていた。

今日はこれを聞かないと眠れない。

あながち冗談でもなかった。

そのまま待っていても仕方ないので、芝岡は帰り支度を始める。



ピロン。



芝岡のスマホが鳴った。

鹿島からの返信だった。



「ラインの返信も早いな。」



気なって仕方ない芝岡は焦り気味にスマホを手に取る。


うちの母校に何があったのか。

どうせくだらないことだろうと思いつつも

ここまで待たせた分は驚かせてほしいと期待もしている。



遂に聞ける。

芝岡は鹿島のトーク画面を開く。



『あ、そういえば途中でしたね。うちの高校の監督あの年でパーマかけたんですって。年甲斐もなく。あ、それだけっす。』



芝岡はたったひとこと。








「…しょーもなっ。」

清々しい勝利のご褒美は

あまりにも淋しいものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

後輩は二塁へ走り去る 古谷茶色 @furucha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ