粘りの結果
福岡スパイダース 対 北海道ホエールズ。
六回裏、スパイダースの四番
芝岡のホームランにより一点を先制。
しかし七回表にホエールズが連打。
二、三塁のチャンス。しかし、2アウト。
先発上田はここで降板。右のサイドスロー石野。
このピンチでマウンドに上がります。
ここで打順は一番に戻ります。
一番、俊足の鹿島。
今日は初回の内野安打以来ヒットが出ていません。
このチャンスものにできるか、北海道ホエールズ。
鹿島はいつも通り感情の見えない
ポーカーフェイスで打席に向かう。
チャンスでもピンチでも
表情が変わらないのが鹿島の強みでもある。
芝岡はファーストの守備に付きながら
左打席に立つ鹿島の背中を見る。
「…やっぱり気になるんだよな。」
芝岡はまだ気になっていた。
しかし、先ほどよりは冷静になっている。
現在、一打同点のピンチ。
しかも、バッターは俊足の鹿島。
内野に転がされてもセーフになる可能性がある。
スパイダースの守備陣もいつも以上に気合を入れている。
「いや、集中。」
勿論、芝岡も緊張感をもって守備についている。
ピッチャーは石野。投球練習を終えた。
左打席の鹿島ゆっくりと構える。
一球目。スライダー。ストライク。
最初からキレのいい変化球。
二球目。ストレート。
鹿島、バットに当てるがファール。
簡単に追い込まれてしまった。
しかし、鹿島の顔は変わらない。
ここから鹿島得意パターンが始まる。
ファール。ファール。ファール。ファール。
鹿島は四球続けてカットした。
「あー、始まった。」
芝岡はため息をつく。
鹿島は追い込まれても、とにかくカットして粘る。
それに加えて、あからさまなボール球は見る。
ストライクゾーンの球はファールで粘り、
ボール球は見切ってカウントを重ねる。
鹿島は結局十球ほど石野に投げさせ
フルカウントまで粘った。
ピッチャー石野はあからさまに嫌な顔をしている。
「そろそろ前に飛ばせよ、鹿島。」
芝岡はその様子を高校時代から見ているため
正直、もう見飽きている。
鹿島のその様子を見て、芝岡にまたお粗末な考えが浮かんだ。
「フォアボールなら一塁来れるよな。そしたら…。
抑えられたらいいけど、フォアボールなら…。」
残念ながら
これがスパイダースの四番に座っている男。
鹿島はその期待など露知らず。まだ粘っている。
そして
ピッチャー石野、十三球目。ストレート。
しかし。
甘く入ったボールは鹿島のバットにとらえられる。
三遊間を抜け、レフトの前に転がった。
三塁の同点ランナーはホームへ帰ってきた。
「レフト前か。鹿島、粘りすぎだっつーの。」
一塁に到着した鹿島に芝岡が声をかける。
芝岡は鹿島のヒットを見て
残念な顔をしながらも少しニヤけてしまっている。
それはもちろん
シングルヒットだと決めつけたからである。
「それで鹿島。さっきの話の続きなんだけどよ…。」
しかし、鹿島の足は止まらなかった。
レフトの守備が少しもたついているのを見た瞬間に
鹿島は判断し二塁へ。
レフトもすぐに二塁へ送球したが、間に合わず。
レフト前タイムリーツーベースヒット。
二塁についた鹿島の表情は全く変わらない。
「はっや。」
芝岡はの顔はまた曇ってしまった。
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