第42話 ドラゴン
15分ほど前から月が出てきた、視界が明るくなり飛びやすい。
それはつまり、地上の人間にも目撃されやすくなってしまったという事だ。
なので、俺たちは少し高度を上げて進んでいる。
ラーヴァを飛び立ってそろそろ二時間、ナザット国の国境はさっき越えた所だ。
「零史、南西の方角。もうドラゴンを視認できると思います。」
「とうとうドラゴンとご対面か。」
俺は身を乗り出して、ルナの指す方向を覗き込んだ。
穏やかな山々が連なった光景が広がり、蛇の様にうねった谷が見える。
その谷を流れるのは、川ではなく赤……?もっとよく見ようと目を凝らした。
そこは、まるで怒った王蟲(オウム)の行進だった。赤く光る波が、ものすごい密度で谷を北上している。
一瞬、心奪われるほど綺麗な光景……その赤い光が、魔物たちの眼光でなければ。
「【リーン♪】アルタイル、南西……二時(にじ)の方角だ!」
「……なんじゃあれは、まさか、あれが全て魔物じゃと言うのか!?」
アルタイルの動揺が伝わってくる。
俺も、あまりの予想外の出来事に戸惑っている。
すると通信を聞いていたのだろう、スピカから応答があった。
【零史お兄ちゃん!無事!?】
「ああ。ドラゴンを見つけたよ。でも……。ルナ、なんであんな事になってるんだ?」
俺は赤い波を指してルナに問いかけた。
「多分ですが……ドラゴンの凶暴化により溢れでた魔力……オーラ……妖気……のようなものが他の魔物に影響を与えたのではないでしょうか……。」
ルナはウサギの鼻をヒクヒクさせながら難しい顔で赤い波を睨んでいる。
「つまり、ドラゴンに影響を受けて回りの魔物も凶暴化したってことか!?」
ヤンキーの友達の影響で、グレた的な!?
【どういう事なの??】
「ドラゴンだけじゃなくて、数えきれない程の魔物が集まっているんだ。集団となって迫ってきてる。」
【そんな!】
「どうする零史、あそこへ近づくのは危険じゃぞ……。」
アルタイルから、唸り声交じりの言葉が届く。
「だよね、俺もそう思う……でも。」
ドラゴンの凶暴化を静められるかもしれない……。そうすれば、ラーヴァの街は確実に助かるだろう。
しかし、今ここでドラゴンに近づき、俺とルナはともかくアルタイルを危険に晒す事になる。
ドラゴンだけでも心配なのに、他の魔物というイレギュラーがあるのだ。
「行きましょう、ドラゴンの元へ。私の心配はしますな。」
眼下の光景を睨みながら悩む俺に、アルタイルの力強い声が届いた。
「なっ!でも……。」
「私の運転技術を見せつけてやるのじゃ!」
「ははっ、そうだね!行こう!」
「零史。私も手伝います。」
【気を付けてね。】
アルタイルとルナの後押し、それにスピカの応援があるなら、百人力だ。
「スピカは、この事を騎士団に伝えて。」
【わかった!】
騎士団は上へ下への大騒ぎだろう、皇都から援軍を迎えるにあたり、通信機を見せる訳にもいかない。なので、騎士団への連絡はRENSAメンバーか担っている。
「さっさとドラゴン沈静化して、なんなら魔物も減らしておくよ。」
頼れるかっこいいお兄ちゃん目指して、まずはあの交通渋滞のような赤い光の波を片付けますかね!
「『えいえいおー』じゃ!」
「おー!」【おー!】
「あっ、それ使いかた微妙にチガッぅうわぁああああ!【リーン♪】」
アルタイルの懐かしい掛け声と共に、飛行機がキリモミ状態で急降下していった。
急接近する俺たちにまず気がついたのはドラゴンだ。
地面を滑るように飛んでいたドラゴンは、その顔をこちらへ向け、1つ咆哮をあげた。
「グガァァアアアアア!!」
それに続いて他の魔物も吼えながら、こちらを見る。
ギャアギャアとうるさく喚(わめ)く魔物たちは様々な攻撃を飛ばしてくる。
魔法や、棘や角などが統率も何も無く、一辺倒に何度も俺たちを襲う。
アルタイルはそれをクルクルと機体を回しながら華麗に避けていった。
「ははははっ!見える!見えるんじゃ!」
「ア、アルタイルさぁぁあああん!?」
何だか聞いた事があるセリフが聞こえた気がするが、俺は機体にしがみつくので精一杯だ。
「飛行機を赤く塗った方が良かったでしょうか?」
ルナが俺の肩に器用に乗ったまま首をかしげている。
(なんで赤?なんて聞いてやらないからな!)
赤くなっても早さは変わりません、あしからず!
急接近したことにより、ドラゴンの近くまで来たようだ、少し魔物たちの攻撃の隙間が出来た所で、俺はドラゴンを見据える。
右手を伸ばし、ドラゴンの魔力を奪い取ろうと能力(ブラックホール)を発動した。
ドラゴンの中に溢れていた赤い魔力が滲み出る様に俺の右手へと吸い込まれていく。
ドラゴンは自分の魔力が逃げていく感覚に戸惑い、怒り、俺たちへと鋭い爪を振りかぶった。
ブォォオオオン!
「グガァァアアアアア!」
「いったん離れるぞ!」
アルタイルが機体を一度上昇させる。ドラゴンの爪が宙を掻き、俺たちがいた所を引き裂いた。
その余波で回りにいた魔物が何匹か巻き添えになる。
「ギィァァアアア!」「グァ!グァ!」
魔物たちの断末魔を横目に、俺は再び右手を伸ばした。
ドラゴンの魔力を本領発揮とばかりに奪い取っていく。
赤い魔力の流れがまるで横向きに落ちる滝のように俺へ流れてくる。
《……っ……し……!》
「ん?」
ドラゴンがガクッとバランスを崩した。
魔力を奪い過ぎると死んでしまう、俺は右手を引き寄せるように能力(ブラックホール)を止める。
「今じゃ零史!」
「う、うん!」
俺は慌てて、今度はドラゴンの感情を探り始めた。ドラゴンを注視する。
凶暴化によりヒートアップした感情を、激情をその目に写すために。
ドラゴンと目が合った……気がした。
瞬間、俺はまるで意識ごと飲み込まれてしまいそうな激流に包まれた。
そして次の瞬間……俺は、真っ暗な闇に立っていた。
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