第41話 スメールト最期の夜
零史とアルタイルとルナは、飛行機に乗って。
斥候(せっこう)として、闇夜を飛んでいた。
ラーヴァから山脈沿いに南西へ進んでいき、ものの10分ほどで国境を越え、さらに飛んだ。
もう一時間くらいは飛んでいるが、景色はほとんど変わらない。
空を飛ぶ俺たちから見て右には山脈がそびえ立ち、左には砂漠地帯。
ライオンを横から見た形をしているリエーフ大陸の、鬣(たてがみ)部分にあるラーヴァから、背筋に沿って南下していた。
その背筋部分に、ドラゴンが今通過中のナザット国がある。
砂漠の方は、リエーフ大陸のお腹の所、砂漠の国『ジヴォート帝国』だ。
夜風が冷たいが、ルナのフワフワのおかげであったかい。砂漠の夜は冷えるというのは本当なんだな。
夜空に浮かぶ3つの月は今は雲にかくれている。
「どお?ルナ、ドラゴンの場所分かりそう?」
俺が、一生懸命に飛行機の"燃料"にてっしながらルナに問いかける。
この飛行機の燃料は、まだ俺だ。
俺のエネルギーを噴射して推進力にしている。普通の人間なら、数秒で死亡する程のエネルギーを使っている。
ほんと、人使い……聖霊使いが荒いよ。
「かなり近づきましたが。まだ一時間ほどはかかるでしょう。」
今がちょうど半分くらいと言うことか。ドラゴンもこっちに向かって移動しているだろうから、もっと早く出会えるかもしれない。
「【リーン♪】アルタイル、あと一時間くらいでドラゴンが居るって。」
「了解じゃ。【リーン♪】」
通信機のおかげで、飛行中の会話が楽になった。以前はとにかく叫んでいたが、今は少し声を張れば伝わる。
もっと早く作っておけば良かった。
ドラゴンなんて、本当におとぎ話のような存在に会えると思うと、緊張で心臓がバクバクしている。
今回は偵察だ、いきなり戦闘をしかけるわけじゃない。それに、知恵ある魔物って聞くし……正気に戻すことが出来たら、少し話を聞いてみたい。
千年を越えて生きられる種族だし、きっとたくさんの事を知ってるに違いないのだ。
俺はソワソワというか、緊張するというか、こう、キンさんギンさんに会いに行く感じ……全然違うか。
とにかく、浮き足立っていた。
ラーヴァが出兵準備に追われ、零史が砂漠を飛んでいる時。
ここは、ナザット国の中で最北端に位置する町、スメールト。
歴史的な事件『ドラゴンの凶暴化』で1番被害の多かったナザット国。そのナザット国で最も死者の多かった町がこの、スメールトだ。
この日、スメールトの町が地図から消えた。
スメールトの町は、山々に囲まれた盆地にある。
ナザット国の中では、ガラヴァ皇信国とジヴォート帝国に一番近い町だ。といっても山に囲まれているため、天然の要塞になっており、ここ何百年も国家間の争いとは無縁の長閑な町だ。
町の入り口の谷は、ナザット国の外れにある、リエーフの尾 (リエーフ大陸の尻尾にあたる部分)の山脈まで続いている。
月の光の無い夜、谷底に赤い2つの光がギョロリと除いていた。
その大きな赤い光を取り囲むように、小さな光がユラユラと蠢(うごめ)いている。
それは、数千の魔物の……眼だった。
狂ったような眼光がユラユラとひしめき合いながら、スメールトの町へ近づいてきた。
最初に気がついたのは町の入り口の関所に立っていた兵士だ。
「ん?地震か?」
魔物たちの歩みは、地響きと地震になって伝わり、兵士はその揺れに怯えて暗い谷底に眼を凝らした。
「何だあれ。」
一緒に夜勤で関所に詰めていた同僚も出てくる。
暗闇に蠢く赤い光に二人が首をかしげた、その時。
月を隠していた雲がザッと晴れて、谷に月明かりが差した。まるでスポットライトのように照らし出されたその光景に、二人は息も瞬きも忘れて固まった。
「「ヒッ!?」」
50mを越える程の巨体に、鈍く光を反射する黒いウロコ。
そして赤く荒々しい眼光が二人を貫いた。
「……ドラゴンだ。」
「ああぁぁ……。」
「グガァァアアアアアッ!!」
ドラゴンは、自分の回りに集まる魔物も踏み潰しながら瞳孔の開いためで咆哮をあげた。
大気を震わせる叫びだ。
そして、苦しそうに顔を歪ませると、大きく口を開けまるで『神の雷』のような一撃を放った。
ビシュゥゥゥゥウウウーーーー!!!
という音とともにその光の柱が襲い来る。
まるでスローモーションのように、兵士二人はその雷を見ている事しかできなかった。
雷は空を割き、二人を飲み込みながらスメールトの町へとまっすぐ落ちて、爆発したのである。ドラゴンの一撃にスメールトの町は飲み込まれた。
あとにはただ、クレーターの様に抉れた盆地と、焼け焦げた残骸が残っていた。
その瓦礫を、騒々しく奇声をあげながら魔物たちが踏みつけていく。
ドラゴンを先頭に炎を巻き上げて進む。
そしてスメールトの町は地図から消えた。
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