第38話 運命が戸を叩く音
無事、ラーヴァの街に帰ってきた俺たち。
ルディとツィーは取り敢えずRENSA本部の我が家にお招きした。
とにかく、疲れたので風呂入って寝たい。
ツィーの回復を待ったため、3日ぶりのマイベッドである。
「やっぱ自分の布団がいちば……。」
ドンドンドン!
ドンドンドンドン!!
(家の戸を叩く音が聞こえる……眠い、でもうるさくて眠れない。)
外から聞こえる戸を叩く音は、だんだんと激しさを増している。
もう夜である、こんな時間にいったい誰が何の用で来たのか、サッパリポン心当たりが無い……眠い。
(きっとアルタイルとか、誰かが、対応してくれるよね。)
俺はそう結論つけて、意識を手放そうとした。
【リーーーン♪リリリリーン♪】
そこへ、通信機の鈴の音が響いた。
【起きてくれ!一大事なんだ!!】
この渋かっこいい声は、レグルス団長のようだ。聖霊と分かってから使っていた敬語が崩れるほどの緊急事態のようだ。
ってか、戸を叩いてたの団長?え?黒電話持って来たの?
(シュールだな……。)
団長が黒電話を抱えている所を想像しながら、重い瞼を開ける。
「零史、一大事のようですよ。」
「うん……みたいだね。」
ルナが隣で苦笑している。俺は一度アクビをして眠気を飛ばした。
忘れている人もいるかも知れないが、俺は聖霊。睡眠は必要無いのだ。
こういう時、ああ俺は人間じゃ無くなったんだなって思う。
なのに何で寝るのかって?人間だった時の癖とか、習性っていうか……まぁぶっちゃけた話、寝るのが好きだからです。惰眠を貪るのが最高に好き。お休みの日は基本寝ていたい。こんな所は変わってないな俺って思うよ!
ドンドンドンドンドンドン!
【零史!!!】
「起きた!起きました!行きます!!」
どうやらまだ通信機は繋がってたみたい。
しびれを切らしたようなレグルス団長の声に、飛び起きた俺は勢いよくフローリングに立ち上がって、玄関へと駆け出した。
リーンと追いかけるように鈴の音がした。
1階に下りていくと、そこには既にアルタイルを初めとした全員が集合していた。
玄関も開いており、レグルス団長が俺に気づいて顔をあげる。
「どうしたんですか!?」
「頼む、俺たち騎士団だけではどーしようも無いんだ。助けてくれないか。」
レグルスは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた、
「いったい何が……。」
「ひとまず騎士団に、話はそれからだ。」
そして急き立てられながら、俺たちは騎士団の馬車へ乗り込み、市役所へと向かった。
馬車の窓から見る夜の街は、いつも通り穏やかで、夜空の星が綺麗に見えた。
あの団長の慌てよう、宇宙に行くのはまだ先になりそうである。
面倒事は出来るだけ避けたいけど、協力してくれている騎士団を助けたい気持ちもあるし。
この街に来て、調査官になって、シリウスやレグルスに会った。この街を実は結構気に入ってる。ラーヴァに何か出来るなら、ちょっとくらい面倒でも頑張ろう。
(きっと、これも宇宙飛行士の夢のためだ……。)
俺は気合いを入れ直した。
とりあえず、事情を聞くだけだし、俺とルナ、そしてアルタイルの3人がレグルスと一緒に来た。
他のメンバーは家で待機だ。
お馴染みの団長室は、緊迫感に包まれて居た。
貴公子リゲル君は、真っ青な顔で出迎えてくれたし、マッチョオネェのアダラは何故か悟(さと)り顔だ。既にシリウスもおり、スライム実験の時のルナーも居る。
ルナーは椅子に座りマナーモードのようにガタガタと震えていた。
(え、狂暴化の前兆かな?)
そんなわけない。
俺たちが部屋に入ると、いの一番にリゲルが飛び付いてくる。
「お願いしますお願いしますお願いします、私たちをどうかお救いください。」
「は?え?ちょっと??」
まさしく『神頼み』ならぬ、『聖霊頼み』な感じだ。リゲルのいつもの貴公子の仮面はかなぐり捨てられていた。
「そう言われても、まだ何も聞いてないんで……なんとも……。俺に出来ることなら、助けてあげたいですけど。」
「本当ですか!?」
リゲルは涙まで浮かべている。
やばい、話を聞いて「ごめんなさい、出来ません。」とか言えない空気だ。
「何はともあれ、事情を聞いてからじゃのぉ。」
アルタイルが、あまりの騎士団の様子に引きぎみだ。
「こんな時間に叩き起こしたという事は、緊急をようするんじゃろう?」
「帰還早々に呼び出して申し訳ない。」
レグルスが定位置に座り、頭を下げる。
「それは良いんですが、理由を教えてください。」
「ああ、それがな。……この街に、ドラゴンが攻めてくるそうなんだ。」
「「「はぁ??」」」
あまりに真剣な顔のレグルスに引き換え、俺たちは完全にポカーン顔だった。
「ドラゴンって、本当に居るんだ。」
俺が小学生のような感想を述べる。
「ドラゴンが人里に降りてくるなど聞いたことがないぞ?」
アルタイルがそう狼狽える。
「ドラゴンは知恵のある魔物です、聖霊の居るこの街を襲うような愚かな事はしないかと。」
ルナ先生はどうやら、ドラゴンについて人間より知っているようだ。
いきなりそんなことを言われても半信半疑にならざるおえない。
『人間には関わらずに暮らしているドラゴンが、何故か聖霊も居るこの街を襲いに来ている。』
ほら、誰だってデマだと思うだろう。ドラゴンが気分転換にお散歩してるって言われた方が信じる。
だが、レグルスの顔は険しいままだ。
「え、まさか……。」
「そうだ、信じがたい事だが……どうやら、ドラゴンが凶暴化してしまったようだ。」
ドラゴンも魔物だったという事だろう。重い沈黙が流れる。
ドラゴンといえば、最強の魔物といっても過言ではない。知恵があり、何千年も生きられる程の生命力……魔力もかなりあるだろう。
人間が敵う相手ではないのは、俺にもなんとなく分かる。
それに、狂暴化の犯人もまだ分かっていない、完全に後手にまわっている。
だがこれで犯人へ繋がる、情報が得られるのではないだろうか。
誰が、ドラゴンを凶暴化させる程の魔力を注いだのか。
何故、ドラゴンが来る前に知らせが来たのか。
どうして、ドラゴンはラーヴァ(この街)に向かっているのか。
レグルスが、1枚の紙を差し出す。
「今日の夕方に、皇都から鷹便で届いた知らせだ。ドラゴンはどうやらリエーフ大陸の南端の半島にある山脈に生息していたらしい。山沿いに北上し、ナザット国を蹂躙しながらさらに北上している所だそうだ。このまま真っ直ぐ向かうとラーヴァに直撃ルートだろうという事が書いてある。」
ナザット国とは、リエーフ大陸中央の西側にある。このガラヴァ皇信国の南だ。
ライオンが伸び上がる形をしているリエーフ大陸の、お腹側がジヴォート帝国。背中側がナザット国だ。
ドラゴンが生息していた半島が尻尾の所なので……尻尾から背中づたいに来ているという事か。
そして丁度たてがみの所にある、このラーヴァに来るだろうと言う事だ。
ナザット国の被害も心配だが、明日は我が身である。そんな事も言ってられない。
「聖霊とドラゴンってどっちが強いのかしら?」
アダラが俺ではなくルナに話しかける。
「もちろん聖霊と言いたいところですが、人間を守りながらという足枷がありますからね。」
守りながら戦う……そんな器用な事を、強敵相手の経験がない俺に出来るとは思えない。
「ドラゴン……ははっ、俺たちなんかじゃ、アリと像ですよ。」
マナーモードのルナー君が喋った。
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