第29話 RENSA採用担当



「シリウス、やめろ!」

「うるさい!……そうさ、ただの八つ当たりだって分かってる!!

でも、言わずには居られないんだ!こいつには助ける事が出来たのに!!」

「そんなの言ってたらキリはねぇんだぞ!」


レグルスとシリウスの怒鳴り声がぶつかる。


「だけどっ!科学は罪じゃ無かった……!」

「そうだ!俺も戸惑ってる。……俺が、今まで何人の科学者を殺したか!ここにいる皆ショックを受けてるに決まってるだろうが!お前と同じだよ!」


空気が重い、大切な家族を奪われる。

きっと想像もつかないほどの痛みだ。もし助ける事が出来たと知ったら誰だって思ってしまうだろう。

二年前か……俺は、おれは……。

……俺がこの世界に来たのは、一年半前だ。


「しょうがないじゃないか。」と、思っても良いのかな?


俺だって転生したくてしたわけじゃない。

俺だって日本でもっと暮らしたかった。

俺だって、助けられるものなら助けたかったさ!


「零史に責任は無いぞ。」


アルタイルが、慰めるようにそう言ってくれる。けど、開き直れるほど強くない。


「俺がもっと早く……。」

「いや~ん、それは傲慢だわ。」


ベラトリックスが俺の言葉を遮り、腕を絡ませてくる。


「過去に戻る事はできないのぉ、それにシリウスの兄を殺したのは零史じゃないでしょ?」

「そうですよ、零史。そもそも聖信教の作り出したルールじゃないですか。いま零史が現れた事に感謝こそすれ、怒りをぶつけるなど……。」


ルナがその赤い瞳を怒りに染めている。


「聖霊が人間の味方だと無条件に信じている愚かな人間どもよ。」


聖霊はもともと人間に関わる事の稀(まれ)な生き物だ、生きている時間の流れや能力、考え方など……ルナと一緒にいて人間との違いを強く感じる。そもそも全く別の生物なのだ。

人間と宇宙人くらい違うのだろう。


宇宙人が、人間に友好的とは限らない。


ルナの言葉を聞いて、シリウス達がぶるりと震える。親のように、いつも守ってくれると何の疑問もなく信じていたのだろう。

確かに、突き放されるとは思っていないから好き勝手ぶつかれるのだ。反抗期のように。

ふと、スピカがシリウスの前に進み出て、睨み付ける。


「私は、零史お兄ちゃんに助けられました。私は魔力欠乏寸前で、しかも売られて……あのままなら、死んでいたと思います。」


スピカが涙をこらえて、大きく息を吸う。


「私は助けて貰えた。だからこんな事言っても信じてもらえないかもしれないけど。……もし、間に合わなくたって。あの時魔力が尽きて死んだって……。」


ボロボロのスピカが、命からがら逃げてきた時の事を思い出す。

痩せ細り、目が虚ろになって、笑うことが難しくなっていた小さな女の子を。

今の、頼りがいのあるスピカからは想像もつかないほど、世界に絶望していた顔を。


「それで死んだって私は零史お兄ちゃんを責めたりしなかったわ。だってきっと悲しんでくれるもの。泣いてくれるもの。……

零史お兄ちゃんはそういう人だもの!」


スピカの瞳から涙がこぼれる。


「今だって、科学者や悪魔の子の現状に悲しんで、助けるために、いっぱい、いっぱい頑張ってるのに。……それなのに、零史お兄ちゃんを悲しませる人は、私が許さないんだから!!」


スピカが怒りながら、右手を大きく振りかぶって……


バチィィッン!!!

「ぐぶっ!!」


スピカの強烈なビンタが、レグルスにダメージを与えた。

スピカの小さな体の、どこにそんな力があるのかと思うほど、レグルスはふっとんだ。

深呼吸をしたスピカがふっとんだシリウスを静かに見る。


「他人(ひと)を責めてないで。貴方が、お兄さんのような科学者を助ければいいのよ。」


慈愛に満ちた笑顔すら浮かべて、張り倒したシリウスを見るスピカ。

きっと将来は良い肝っ玉母さんになるだろう。まだ少し可憐なままで居てほしいと思うのは俺だけかな。

壁を背にして床に尻餅をついているシリウス。


「……。」

「ほら、ちゃんと零史お兄ちゃんに謝って。」


そこへ、スピカの叱責が飛ぶ。

するとシリウスは、ギギギ……と顔をこちらへ向けて、まばたきを忘れたように俺を見た。


「……ごめんなさい。」

「いいよ。……ほっぺた痛くない?」

「大丈夫だ。」


俺はシリウスを助け起こそうと右手をさしだし、シリウスはその手をとる。


「本当にすまなかった。」

「……しょうがないよ。」

「しかし……だからって……。」


シリウスは憑き物が落ちたように素直になっている。ビンタパワーさまさまなのだな、先程とはうってかわってしおらしくなってしまった。


「じゃあ、シリウスもRENSAに入ってよ!それでチャラね!」


いつまでもウダウダしててもしかたがない、俺たちは今を生きているのだ!

ゴメンナサイはちゃんと許してあげましょう、って母さんも言ってたしね。たぶん!


「RENSAの採用担当って事で、科学者たちを助けて回ろう!」

「いいのか?」

「いいよ!……俺たちと一緒に、お兄さんのような人たちを助けてよ。」


繋いだままの手をギュッと握り直した。


「ああ!……オレにチャンスをくれて、ありがとう……本当に、ありがとうございます。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る