第28話 セールスマン
俺はシリウスや騎士団の面々に向き直り、両手を強くにぎる。
「俺が、正体を隠していた理由ですよね……。俺たちは、聖信教に見つかりたくなかったんです。」
この国で、聖霊を神とあがめる聖信教。聖霊からしたら、味方とも言うべき教団から隠れていた俺たち。
「なぜ……聖信教に?」
レグルスの疑問はもっともだろう。
「……俺たちが『科学者』だからです。」
この言葉には、話を聞いていた皆が息を飲んだ。
「貴方(聖霊)が……科学者だと?」
「そうです。科学技術を使って空を飛ぶ研究をしています。」
「『飛行機』と言うんじゃ、すでに飛行実験はした。まだ実用的では……ないがのう。」
アルタイルと作った飛行機は、飛びはするが、燃料が『俺』だから他の人には飛ばすことができない。早く動力源の燃料を開発したい所だ。
「だけど……聖霊は……。」
アダラが、グーにした手をアゴに添えて困惑している。
モリッとした上腕二頭筋が眩しい。
聖霊は科学を嫌っている。
それはこの世界の人々の常識だ。少なくとも聖信教が統治するこの国で、科学者はイコール犯罪者。
問答無用で処刑されてしまう。
「俺は1年半前、この世界に来ました。そしてアルタイルに出会った。森の中の神殿でした。」
「あの遺跡か!?」
「そうじゃ、闇の神殿で出会ったのじゃ。私はもともと、森に隠れ住んでおりましての。」
「俺はそこで『初めて』聖信教の教えを知りました。」
「初めて!?では聖信教は……。」
聖信教は聖霊が作った教義によるもの、しかし聖霊が知らないとなると、話は変わってくる。
立ち上がり驚くレグルスに、ルナが答える。
「少なくとも闇の聖霊は、聖信教とは無関係です。」
ルナにはマスターの記憶もある、この言葉は確かだろう。
そもそも聖霊は、人間にあまり関わってこないという話をルナがしていたし。マスター君も引きこもりだったみたいだし。
この国が神と崇めていた存在から、認識されていなかった衝撃。
しかも、その神に実は反逆していた事になるのだ。
レグルスは脱力感に、膝をついた。
「この国は……なぜ……。」
とどめを刺すようだが言わせてもらいたい。
「俺は、科学が好きです。俺の夢は、この惑星(ほし)の外……宇宙に行くことなんです!」
俺は力強くレグルス団長に語りかける。俺の夢、宇宙飛行士への大事な協力者を獲得すべく、レグルス団長はここで口説き落とさねばならない!
「うちゅう……。」
この時のレグルスの顔は、いわゆる……ポカーンでした。
「だから、俺は『RENSA』という組織を作りました。まだこの5人しかいませんが、科学者を保護したいんです。
そして俺は、科学者に対する国の偏見を取り除きたい!」
怒濤のような説明がつづく、そう俺たちはセールスマンなのだ、相手がYESと言うまで粘り強くアピールしなければ!
「魔力は生命力じゃと言っただろう?いつまでも魔法社会では、命を削るばかりじゃ。」
アルタイルの援護射撃がきた。しっかりメリット部分もアピールするのだ。
「この国の平均寿命は50歳程度ですよね?俺の知っている科学の発達した国は、80歳以上です。」
「なんと、それほどまでに長く生きられるのか!!」
リゲルが大きな目を更に大きく見開く。
そして、俺はアダラオネェさんに向き直って、ガッツポーズを決めた。
「科学は、美容にも役立ちますよ!」
「美容……っ!!」
アダラは、ムンクの叫びポーズで固まった。
(フッ、ちょろいな。)
少々脱線したが、これが俺たちが正体を隠していた理由だ。
「俺たちにとって聖信教は、相容れない存在なんです。しかも見つかれば殺されてしまう。」
俺は隣のスピカを見る、科学者だけじゃない。
聖信教と対立する訳は、まだある。
スピカがスカートの裾を握りしめて、その瞳に金をにじませる。
「聖信教は、私たち悪魔の子を不等に扱っているんです!私は……魔力を使い尽くされ、売られる所でした。」
俺はスピカの頭を撫でる。
アダラがスピカの言葉を聞いて驚きの声をあげた。
「そんなひどい!聖信教は、悪魔の子を保護するはずなのに……。」
レグルスが眉間にシワを寄せ、苦悶しながら俺たちに問いかける。
「聖信教がそんな組織だとは……にわかに信じられん。……しかし。
では、貴方は聖信教に、この国に罰をくだすのですか?」
スピカとベラトリックスが俺を見る。二人とも、悪魔の子で生まれてすぐに聖信教へと連れていかれた。そして、スピカは物のように売られ、ベラトリックスは戦闘訓練を受け聖騎士として人殺しにさせられていたのだ。
聖信教に対して思うところは多いだろう。
さらに、聖信教は国そのものと言ってもいい。みんなも、国が自分達を騙していたなんて、胸中は大嵐に違いないのだ。
俺には、本当は実感なんて無いのかもしれない。いままで生きてきて宗教について考えた事も無かった。
しかし日本でも、神社やお寺や教会があったし、結婚も葬式も自然と宗教によってしきたりが違う事を受け入れていた。
「俺は……ある程度、宗教も必要だとは思います。心の拠り所が必要な人もいる。だから、聖信教を消滅させたい訳ではないんです。」
この国の人たちの拠り所を無くしてしまうつもりはない。
レグルス団長は俺の返答に安堵のため息をつく。
しかし、俺は現状維持をさせるつもりも無い。
「だけど、科学者を悪と断じ、人の命を奪うのはおかしい。悪魔の子もただ魔力が多いだけの普通の人間だ。間違った認識は絶対に正したい!」
宗教に改革はつきものだ、なんだって時代に合わせて変わってきたのである。
これが、俺に出来る事だ。聖霊である、俺にしかできない事だ。
そこへ、ポツリとシリウスの声が落ちる。
「なんで……今なんだ?」
シリウスの怒気すらはらんだような声が、全員から声を奪った。場はシリウスの一言に静まり返る。
俺は、何がなんだか分からない気持ちで、シリウスの次の言葉を待った。
「何で……今更出てきたんだ?もっと早く来てくれたらっ!
兄貴は助かったかもしれないのに……!」
シリウスは強く握りすぎた拳を震わせて、俺を睨む。
それを見て、レグルスがシリウス肩を掴む。
「やめろ、シリウス。」
「何でもっと早く……来てくれなかったんだ。」
「いったい、なにが……。」
俺はひたすら困惑するしかない。
レグルスがゆっくりと俺を見て、そしてそらした。
「2年前の事だ。シリウスの兄が科学者だという手配書がきた。」
その言葉に、一瞬呼吸が止まった。
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