第27話 三度目で正直


「団長さんも、聞いた事があるんじゃないかのぉ。『闇の聖霊の伝承』を。」


アルタイルが歩み寄り、レグルスへ語りかける。


「闇の?……『闇の聖霊は、罪人に罰をくだす』か?」

「そうじゃ、真実は『罪人の、悪の感情を取り去ることができる』のだ。」


俺の本当の能力は『どんな』感情でもエネルギーに変換できる だが、アルタイルはそこまでの情報は開示しなかった。

俺が危険視されるのを防ぐためだろう。


(ありがとう、アルタイル。)


俺はアルタイルに目配せをして感謝を伝える。

アルタイルは、心得たというように微笑んだ。

その時、体に魔力の戻ったリゲルが目を覚ます。


「ん、んん……ぐぅっ、頭が……。」


抱えていたレグルスが、真っ先に気づき声をかける。


「リゲル!?……こんの、馬鹿野郎!!」

「ぐぶふぅっ!!!」


レグルスが、無茶をしたリゲルを叱りゲンコツを落とした。

ベラトリックスが踵落としをした頭に、レグルス団長のゲンコツが追加されたようだ。

意識を取り戻したところにゲンコツをもらったリゲルは目を白黒させて痛みに悶えている。まだ状況がうまく飲み込めないのだろう。


「こぉーーーら!」


そんなリゲルをレグルス団長から奪い、抱き上げる人がいた。

マッチョオネェのアダラだ。


「まずはリゲルちゃんを休ませてあげるのが先でしょ。」


軽々とリゲルを、いわゆるお姫様だっこして歩き出すアダラに、レグルスが慌てて声をかける。


「すまんが、アダラ……確認したいこともあるから団長室に頼む。」

「お痛はダメよ?」

「……大丈夫だ。」


騎士団チームvs聖霊チームの戦いは、とりあえず一時休戦という事になり。一団はアダラという新メンバーを含めた9人で団長室に戻ってきた。


(いったい何往復するんだろう。)


三度目の団長室だ。

この世界の人たちは、乗り物が発達していないので、みな健脚らしい。

基本は馬、魔法で動く自転車や車?のようなものも有るらしいが、コスパが悪く貴族階級の遊び程度にしか普及していない。

全員が団長室に入る。

マッチョオネェ……アダラがリゲルをソファに座らせて、俺の前に膝まづいた。


「リゲルちゃんを助けて下さって、本当にありがとうございます。聖霊様。」

「いや~あの、いえ、そんな……。」


漢(おとこ)の鏡のようなオネェさんに大きな体を縮めて頭を下げられ、恐縮で汗が止まらない。

レグルス団長はチラチラと、あきらかに俺を気にしている。


「ほら!団長もリゲルも、お礼を申し上げなさいな。感謝は言葉に出すものよ。」

「……っ、そうだよな。闇の聖霊よ……本当に申し訳なかった。貴方はまぎれもなく聖霊であられる。」

「助けていただいて、ありがとうございます。」


レグルスも俺の前に進み出て頭を下げた。リゲルもソファから降りて頭を下げている。


「いやいやそんなたいしたことでは!」

「たいしたことじゃぞ、零史。」


恐縮する俺に、アルタイルのツッコミが入る。

年上の人に頭を下げられる事に、あたりまえだが慣れていないので困ってしまうのはしょうがないと思う。

そんな俺の横で……


「分かれば良いのです。」

「零史お兄ちゃんは、お優しいですから。」


俺の代わりに、ルナとスピカが胸を張ってくれている。


「しかし、魔力欠乏を聖霊に治していただけるとは……。」


レグルスが何だか困惑顔で、目をすがめている。俺はそれで思い出した。


(己の力量を越えた魔力を使うと……聖霊から罰が下される……?だっけ??)


ここは、魔力についての認識を改めてもらうチャンスなのではないだろうか?


「あ~まず、皆さん。魔力についての認識が間違ってます。」

「「「……は?」」」


騎士団の3人が目を点にしている。


「魔力とはその人、自身の生命力。聖霊から借り受けた力では無いんじゃ。」


俺の後ろにいるアルタイルが簡潔に説明する。


「欠乏すると死ぬのは当然です。生命力なのですから。」


俺が初めてエネルギー補充を行ったスピカが、自分の手のひらを眺めながら言う。


「だから、魔法は聖霊から与えられた力とかじゃないんですよ。自分の力です。」


苦笑を浮かべて回りを見回す俺を、シリウスが黙って見ていた。俺はシリウスからの視線に気づき首をかしげる。


(まだ疑われているのかな……?)


騎士団の三人が身を乗り出して話を聞く中、シリウスは何か考えるように1歩ひいていた。

俺と目があったシリウスが、意を決したように前に進み出てきた。


「……ふたつ、聞いても宜しいでしょうか?」

「……俺で答えられる事があれば……ですけど。」


何せ地球での知識はあっても、聖霊としては1歳だし。いままで森で隠れ住んでた訳で……世間知らずだろうし。


(困ったときはルナかアルタイルに聞こう……。)


聞かれる前から他に頼る気マンマンである。

俺の目の前まで来たシリウスは静かに俺を見下ろした。


「正体を隠していたのは、何故なのでしょうか?」


宇宙飛行士を目指しているからです。

なんて……正直に言っていいものだろうか。

俺は返答に困ってルナやアルタイルに助けを求めながら全力で頭脳を回転させる。


宇宙飛行士……科学の研究をしている話をするならば、まずは聖霊が科学を嫌ってないという話をしなければならないよな?

でも、そうすると聖信教の教えを真っ向から否定する事になるけど、いいのか?

……いや、いっそ全て説明してしまった方がいいのかもしれない。


どうせ、今後俺たちは科学者を集めてRENSAを大きくしていくつもりだし。

騎士団や調査官を味方に引き込めたら、科学者を探す助けに違いない。

科学者の指名手配の情報が来たら、横流ししてもらえないかな~という算段である。

聞こえは悪いが、この国の勘違いによって科学者が殺されるよりはマシだ。

俺はルナとアルタイルをもう一度見る。


「ルナ、話しちゃってもいいかな?」

「零史がこの世界に来た意味なのでしょう?」


俺の人格や地球の記憶が、聖霊に宿った意味。前にも感じた……誤解で苦しむ科学者や、悪魔の子を助けるため。そう俺はそう思っている。


「ごめん、アルタイル……俺のワガママで巻き込む。」

「もとよりそのつもりじゃて。」


この話を騎士団やシリウスが、国に告発したら、俺だけじゃなくアルタイルやスピカも処刑されてしまうだろう。


「スピカとベラトリックスも……。」

スピカが俺を見上げて笑う。


「私を仲間はずれにしたら、泣いちゃうよ。」

ベラトリックスも満面の笑みで答えてくれる。


「死ぬ時は、零史が殺してね?」

「それは遠慮します。」


ベラトリックスの言葉が怖い。見た目がおしとやかに変装しているから、余計である。


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