第30話 口は災いのもと


とりあえず立ち話もなんなので、全員着席する。


「あ~と、それで……これからの話なんですけど。」


俺は、両手を握ったり開いたりしながら、明るく切り出す。手汗がすごい。

常識をひっくり返すほどの案件だ。

流石にこのまま、はいさようなら。という訳にはいかないだろうとは思っていた。

団長であるレグルスはうつむき、困ったように首をかいた。


「俺の気持ちは別にして。騎士団は、国の機関だ。だから騎士団としてレンサ……だったか?に表だって迎合する事はできません。」

「レグルスたちが混乱するのも分かる。オレもそうだった。」


ちゃっかり俺の横に座り、さっさとポーカーフェイスを取り戻したシリウスが、団長を気遣う。

俺はコソッとシリウスをうかがう。


「ちょっと待て、シリウスお前……順応、早すぎない?」


華麗なる転身をとげたシリウスは、にっこりとイケメンスマイルでこっちを向く。


「オレはもうRENSAの一員だろう?」

「手伝ってくれるっていうんだかぁら、いいんじゃない?」

「ほっほっほっ。」


ベラトリックスは歓迎モードである。アルタイルが朗らかに笑っていた。

RENSA側がもめている間も話はつづく。

リゲルが団長に詰め寄っている。


「しかし団長!聖信教の事実を知り、このまま何もしない何て、そんなことでいいんですか!?」

「リゲルの気持ちも分かるがな……。」

「そうねぇ、私もクーデターを起こして無闇に混乱を招きたくは無いのよ……。」

「……っ!」


リゲルも理解はしているのだろう、唇を噛んで押し黙る。

いつだって大人は、がんじがらめなのだ。

自分の好きなように、自由に動ける人は少ない。


「……騎士団の事情も、解ります。」


騎士団として国に反旗を翻すような事はできない。

治安を維持する機関が、争い事を起こすなどもっての他だろう。

ワガママを言ってもしかたがない。


「だが、俺個人が協力することは出来る。」


レグルスが膝を叩いて、にこやかに告げる。

うつむいていたリゲルが、すがるように顔をあげた。


「そんなことをして、バレたら団長さんが今度は命を狙われるのじゃぞ?」


アルタイルが面白そうに目を細めて笑う。レグルスも強気に笑った。


「バレなければ問題無い。」

「団長っ!?」

「はぁん、あいかわらず団長って素敵。」


レグルスの言葉に飛び上がるリゲル、アダラは何故か熱いため息をはいている。


「わっ、悪い大人だぁーーーー!」

「ははははっ!」


俺の言葉で、レグルスが豪快に笑った。

……むかし、俺が宿題をサボって怒られ泣いていた時に、じいちゃんが「バレないようにやれよ、馬鹿だなぁ。」と笑ったことがある。そのじいちゃんが、ちょっぴりレグルスと重なって見えた。


「うほほほっ、そうね。ワタシも個人的に協力するわ。」


アダラがゴリラのような笑い声をあげる。そのうちドラミングするのではなかろうか。

リゲルがその隣でしょんぼりしている。


「私は、貴方の正体を疑い、罵声まであびせました。こんな私でも、参加を表明して良いのでしょうか。」

「良いわよっ、ねぇ零史♡」

「ああ。大歓迎だよ!俺たちがやりたい事を、まさに君が体現してくれたんだ!」

「そうじゃ、常識を変えるというのは、並大抵の苦労では無い。しかし私たちは変える事が出来ると証明された。リゲル殿は私たちの希望じゃよ。」

「はい!」


リゲルは俺たちの歓迎ぶりに嬉しそうに顔をほころばせた。

レグルスがひとつ咳をして空気をかえる。


「それで、これからの話ですが。……聖信教へのアプローチはまだ難しいでしょう。」


さすがに真っ先にラスボスは無理だろうな。と、俺もうなずく。


「はい、俺たちもまずは同胞(どうほう)探しからはじめようかと。ラーヴァに来たのも最近ですし。」

「隠れ住んでいた所が、聖騎士に襲撃されてのぉ。」


アルタイルがチラッとベラトリックスを見た。ベラトリックスは肩を竦めている。

ルナが顎に手をあてて、悩む。


「ですが、騎士団の協力がとりつけられるなら、ラーヴァの街ではたしょう派手に動いても平気ですね。」

「でも、科学者ってどーやって見つければいいのかな?」


スピカが困り顔で聞いてくる。


「んん~噂話とかかな?って思ってたけど……。」


科学者は命懸けなわけだし、隠れてる相手を探すのは大変なわけで。少しでも情報とか有ればなぁ……。


「シリウスは、お兄さんの科学者仲間とか……。」

「知ってるなら既に通報してただろうな。」

「だよなぁ……。」


シリウスのお兄さんは孤高の科学者だったようだ。

しかし、そんな悩みは必要なかったようで。

ベラトリックスが、人差し指を唇に当てて、目を三日月にする。


「騎士団ってことぉわ、科学者の情報とか手配書とかあるわよねぇ~。」


まさに悪魔の表情で、聖信教からの情報を横流ししろと言っている。どうやら、俺たちに正義の味方は向いてないようだ。

向かいのレグルスも、まってましたと言うような悪代官の顔でこたえる。


「もちろん。騎士団に来た科学者の情報は、是非お伝えさせていただきます。」

「ふふふふふ♡」

「ははははは!」


ベラトリックスとレグルスが、息を合わせて笑いだす。

俺はすごくありがたい申し出なのに、素直に喜べない。

いけない事に巻き込まれてしまった感じがするのは何故だろう、首謀者 俺だけど!


(逃げちゃだめだ!逃げちゃだめだ!逃げちゃだめだ!!)


「たっ、助かります。ありがとうございます!俺たちで出来る事があれば何でも言ってください。」

「「「何でも?」」」


騎士団3人の目がギラッと光った。


「では、科学者の情報と引き換えに『聖霊』のお力が借りられるのですか、それ

は美味しい取引ですねぇ。」

「れっ、レグルスさんも悪よのぉ~!」


シリウスが羨ましそうにしている。気がつけばスピカも、ベラトリックスも、アルタイルまでも、『何でもする』発言で羨ましそうに俺を見る。


俺はとんでもない失言をしてしまったのかもしれない。


いったいどんなお願いをされるのか……恐ろしくて前言を撤回したい気持ちでいっぱいになった。

ルナが呆れたため息を吐く。


「大丈夫です、何かあれば私が取り消させますから。」

(どうやって!?)


危ないことはしないで欲しいと思うばかりだ。

そんなこんなで、定期的に連絡をとりあう事で話はまとまり。

俺たちは騎士団を後にした。

何故かついてくるシリウスは、スピカとルナに追い返されていた。

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