第23話 ルナへのお願い
レグルス団長の声に、場の空気が凍る。
リゲルが、レグルスの座っている机に両手をバンとついて詰め寄った。
「……ちょっと待ってください!悪魔の子は生まれてすぐに聖信教の管理下に置かれます!それでは、まるで……まるで……。」
「聖信教が黒幕だ、という事になるな。」
激しく狼狽えるリゲルの声に、無表情のシリウスの声が続く。
リゲルは、今まで自分が信頼してきたものの裏切りを認めたくない気持ちで唇を噛んでいる。なにせ聖信教はこの国の言わば政府だ、王のような存在だ。
それが国民を裏切っていたという事になる。
とても落ち着いてはいられないだろう。
レグルス団長は腕を組んだまま、そんなリゲルに追い討ちをかけた。
「凶暴化は科学者のせいだという、誤った情報までご丁寧に広めていたんだ。聖信教が黒幕じゃないなんて楽観視は出来ない。」
レグルス団長は大きなため息をつき、ボリボリと頭をかいた。
「むしろ、聖信教が黒幕の最有力候補だ。面倒くさいことに、な。」
団長の言葉に、重い空気が流れる。これはものすごい大事件なのではないか?俺はまだ、この国の事を森とラーヴァの街くらいしか知らない。
だから、ショックはあまりない。もともと科学が異端とされている事で、聖信教に敵対心みたいなものもあったし。
「もう1つ、聞きたいことがある。」
団長が、俺とルナ……主にルナの方を見て言う。彼の空気は、まだ警戒しているのが分かった。
「お前は……お前たちは一体何者だ?」
向かいに居るシリウスもこちらへ向き直り、真剣な顔つきで問いかけてくる。
「オレも思っていた、魔物を凶暴化できる程の魔力量。そして、一目で原因を突き止めた。」
「あー、えと俺たちは……え、と。」
どう答えるのが正解だろうか、今さらちょっと魔力量が多いだけの一般人です。なんて誰も信じてくれないだろうし、そんな事を言えば、疑いは深まり……再び縛られてしまうだろう。
「お前たち、聖信教から逃げてきた悪魔の子か?」
魔力量が多いという事で『悪魔の子』ではないか?という疑いを持ったのだろう。団長が剣呑な光を瞳に宿す。
リゲルが何かを閃いたように手をうち、
「そういえば、以前。悪魔の子が誘拐されたという事件がありましたね。」
「あぁ……たしか変な魔法を使う、魔物を連れた男が……まさか。」
シリウスが驚き目を見開き、そしてその目がルナを捕らえた。
「じゃあお前は、弟じゃなくて誘拐された悪魔の子か?」
「いや、誘拐されたのは女の子だ。」
リゲルがすかさず訂正を入れる。
リゲルとシリウスは、緊張を高めている。
「だが他に説明がつかないだろう?」
「だが、こいつらの瞳が金色になったのを見たことは無いぞ?戦っていた時も、捕まった時も……。」
悪魔の子であれば、感情の高ぶりと共に増幅された魔力が金色の瞳という形で滲み出る。しかし、俺たちの瞳の色は変わらない。当たり前だ、悪魔の子では無いのだから。
3人は敵なのか味方なのか、見定めようとしているのだろう。とても警戒しているのがわかった。
「はぁ……。」
俺はため息をつく、やっぱり世の中『正直』が一番なのかもしれない。人の信用は真実からしか得られないのだ。
嘘を重ねても、無理がしょうじるだけだろうし、しょせん『中の上』の頭では……良い言い訳も思い付かなかった。
俺は、正直に打ち明けようと思う。
「ルナ……ウサギの姿になれる?」
「良いんですか?」
ルナが上目遣いで伺ってくる。俺は苦笑でうなずいた。
「ああ、久しぶりにフワフワのルナに癒されたいよ。」
そう言うと、ルナは嬉しそうに立ち上がり、ピョンと俺の肩へ飛び乗ったと思ったら。もうウサギの姿になっていた。
「どうぞ、好きなだけもふもふしてください。」
きゅっと目を閉じて、俺の頬にすり寄ってくる。
安心感すら感じるウサギverのルナだ。実際はピンチだけど。
「「「なっ!」」」
目の前で、少年が魔物へと変化し、さらには喋っているのを見た3人は驚き固まっている。まるで妖怪を見ている心地だろう。
俺はルナを一撫でしてから、3人に向き合って姿勢を正した。
「信じてくれるかは分かりませんが、俺は『聖霊』、闇の聖霊なんだそうです。」
「「「……は?」」」
一瞬、場の空気が止まる、そして戸惑いの声があがった。
「ちょっ、ちょっと待て!いま、お前……『聖霊』って言ったか?」
「聖霊って、あの聖霊か??」
「つくなら、もっとマシな嘘を……。」
3人の反応をみて、俺は頭をかかえるしかない。やっぱり信じてくれないよな、そもそも聖霊の証明ってどうすれば良いんだろうか。
「嘘じゃないんです!俺とルナは聖霊だ。聖霊は魔力が見える。だから魔物の凶暴化の理由が分かったんです!」
レグルス団長は再び腕を組んで、眉間のシワを深くしている。
「荒唐無稽すぎる……でもだからこそ、本当の事を言ってるような気もせんでもない。」
俺は真っ直ぐ、レグルス団長を見つめる。
そしてルナは毛を逆立てて睨む。
「零史は聖霊、そもそも、人間の承認など不要です。この国ごと消してしまいますか?」
ルナから不穏な空気を感じる。エネルギーが滲み出て発光している。
(ルナチュウ、君に決めた!10万ボルトだ!)
そんな事を思っている場合ではない。俺は慌ててルナをたしなめる。
「待ってルナ!俺は人間と仲良くしたいよ。それに、歯向かう人を簡単に殺そうとしちゃダメだ。」
「……零史は、人間に優しすぎます。」
ルナが俺の言葉を聞き、耳をペショと落ち込ませている。
俺はルナをしっかりと見て、言葉を続けた。
「ルナお願いだ、できれば相手の言葉を聞いて、自分の言葉を尽くして分かりあおうと努力しよう。……人間は言葉で理解しあう事ができるって、俺は信じてる。」
俺も完璧人間じゃない。感情があるし、欲求もある。だから一緒に頑張っていこう!という気持ちを込めてルナにお願いをした。
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